美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。

ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会 ピエール・オーギュスト・ルノワール『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

印象派の王道! 何気ないテーマを描いた名画

ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」です

──あ、これも有名ですよね! こんなに大きな作品だったんですね~!

そうなんですよ! その中にたくさんの人物が描かれていて、みんなの表情を見ても本当に楽しそうにしていますよね。まさに「印象派はこうでなくっちゃ!」っていう王道の絵です。

──へ~。それって、こういう楽しそうな絵が印象派らしいってことですか?

えーとですね…。以前お話をしたようにフランスには絵画のヒエラルキーがあって、ギリシャ神話とか古代の歴史とかが素晴らしい絵画とされていましたよね。

そういう崇高なテーマの絵画は教会や王様の住む宮殿なんかに飾られていたわけです。

でも、モネの生きた近代は民主化が進み、今まで絵画の需要層ではなかった一般の人たちも絵画を求めるようになりました。

そうなったときに、一般市民が小難しい「アレクサンダー大王のなんとか…」みたいな絵って欲しいと思いますか?

──自宅には間違いなくいらないですね。うっとうしい(笑)。

でしょ?(笑)だからテーマも身近なものになってくるんです。

自分たちが今楽しんでいる生活、この絵に関してはムーラン・ド・ラ・ギャレットというダンスホールにおしゃれして集まって、みんなでお酒を飲んで、ガレットというクレープを食べ、ダンスに興じる。

こういう何気ないテーマも印象派の特徴なんですよ。

モネの「睡蓮」も、いわば「ただの睡蓮」じゃないですか。メッセージなんてないんですよ。でも、それがいいんです。

──なるほど! テーマにも時代性があるんですね。

あ、テーマの軽さでいうと、こちらの作品はいかがでしょう。シスレーの描いた作品なんですが…。

洪水と小舟 アルフレッド・シスレー『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

──うわ~。きれい! 水面がキラキラしていますね! なんか、ボートに乗った人がいますが…。何をしているんでしょう?

この作品は「洪水と小舟」。つまり、セーヌ川が氾濫してボートでしか外に出られない、という災害を描いたものなんです。

──ええっっ! 災害!? ちょっと頭ん中、お花畑じゃないですか!(笑)

彼らにとってはそんなものなんですよ(笑)。

で、ルノワールに戻って、この作品も残念ながら発表当時、評判はよくありませんでした。

なんでみんなヒョウ柄なんだとか、この男性の頭がハゲに見えるとか言われてね…。

──ひどい…。そんなのちゃんと見りゃわかると思うけど。

それが当時の人にはわかんないんですよ。日の光の下で絵を描いたことがないと、普段そうやって世界を見ていても絵画に落とし込むことができないんです。

──そういうもんかなぁ。ん、でも逆にずっと見ていると、この男の人の頭、確かにハゲに見えるような…。

そっちに引きずられないでください(笑)。

(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)