1月7日に始まるNHK大河ドラマのテーマは紫式部だ。彼女はなぜ、世界的文学作品「源氏物語」で、個人の内面を徹底的に描くことができたのだろうか。本人の才能を育んだ、日本独自の文化的背景として、三つの重大要素があるはずだ。(著述家/国際公共政策博士 山中俊之)
紫式部の“才能を育てた”要素とは
2024年のNHK大河ドラマは、紫式部が主人公となる「光る君へ」だ。舞台は平安中期であり、ドラマや映画で取り上げられることが少ない時代。番組のPR動画ではストーリーを、「華やかな平安貴族たちの世界、その裏で繰り広げられる激しい権力争い」などと紹介し、早くも注目が集まっている。
実は、紫式部の「源氏物語」は、米ハーバード大学をはじめ世界の大学で研究されている。なぜかというと、源氏物語が書かれた当時、ヨーロッパでは「神」が絶対だった時代に、人間の内面に踏み込み、感情を繊細かつ鮮やかに描き切った作品だからだ。
意外にも、文学作品で個人の内面が源氏物語のように微細に描かれることは、同じ時代のヨーロッパではほぼなかった。西暦1000年頃、ヨーロッパはカトリック教会の権力が強かった。神ではない人間の内面を細やかに描く文学作品が生まれる土壌が乏しかったのだ。
「源氏物語」は、世界最古の長編恋愛小説といわれる。主人公の光源氏が、次から次に登場する女性たちと数々の浮名を流すわけだが、ハーバード大の授業で扱う際、現代の感覚では考えられないような奔放な男女関係の描かれ方に、ショックを受ける学生もいるという。
しかし、これは文学作品であり、事実を検証して人物を評価するものではない。文学は、人や社会にとって本質的な思想や人間心理を描きだす営みである。
前置きが長くなってしまったが、本題だ。紫式部が個人の内面を徹底的に描くことができたのはなぜだろうか。もちろん、本人に類いまれな才能があったことは大前提としてあるが、それにつながる文化的背景として、筆者は三つの重大要素があると考えている。