いよいよ今週末から始まる大河ドラマ『光る君へ』。1000年の長きにわたり読み継がれてきた『源氏物語』ですが、著述家の板野博行氏は「今読んでも最高に面白い、超一流のエンターテインメント作品だ」と言います。そこで今回は『源氏物語 紫式部が描いた18の愛のかたち』(青春出版社刊)から『源氏物語』を語る上で外せないテーマ「紫のゆかり」について抜粋して紹介します。
『源氏物語』全編を貫く主題「紫のゆかり」
光源氏の多くの女性遍歴は、義母・藤壺に恋をしてしまったことから始まったといっても過言ではないでしょう。そして、その想いのかなわぬまま、光源氏は藤壺の姪である幼い少女「若紫(=紫の上)」を発見します。
光源氏はこの少女への想いを歌に託して詠みました。「手に摘みて いつしかも見む 紫の 根に通ひける 野辺の若草( =この手で摘んで早く我がものにしたいものだ、紫草の根にゆかりのある野辺の若草を)」。
この歌に出てくる「紫(≒藤色)」は「藤壺」のことであり、「若草」は「少女」のことを意味しています。藤壺を高貴な色である「紫」で表すとともに、出会った少女がその「ゆかり(根=血縁関係)」であることを意味した歌を詠んだのです。
光源氏にとって、藤壺は母の身代わりを超えて理想化され、さらにそれを投影した存在として紫の上がいる、という図式になっています。四十歳になった光源氏に降嫁してくる女三の宮も、実は「紫のゆかり」の人です。