半導体メーカーは各国でスター並みの待遇を受けている。
米エヌビディアのトップは、訪れた国の首脳から外国の高官であるかのように歓迎された。各国政府の代表団は半導体メーカーと関係を築くため、世界中を飛び回っている。
突如として地政学的に重要な存在となった半導体業界にとって、政治の世界で注目されることは良いことでも悪いことでもある。
政界で注目されたおかげで、半導体の 設計、エンジニアリング、製造 のばく大なコスト負担の軽減につながる財政支援を受けられる。しかし企業はかつてないほどの貿易規制にさらされ、政策立案者や世間からも注目されている。各国政府はまだ、技術の世界で最も複雑な分野の一つである半導体産業について学んでいる段階だ。
「企業にとってはもろ刃の剣だ」。世界半導体戦争について著作のあるタフツ大学のクリス・ミラー氏はこう話す。「企業は新たな規制や制約を課されたくないが、インセンティブが提示されるなら最大限に利用したい考えだ」
多くの産業で半導体が中心的な役割を果たしていることが世界的な半導体不足によって明らかになり、米国と友好国にとって「半導体外交」時代の幕が開けた。中国による先端半導体や半導体製造装置の入手を阻止する米国の強硬策によって、半導体業界への注目はさらに高まった。その上、生成人工知能(AI)ブームは半導体に新たな可能性をもたらした。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は2023年12月、アジア諸国を歴訪し、同社のAI向け半導体やその製造技術を熱望する各国首脳と会談した。その中の一人である日本の岸田文雄首相は同年5月、米インテルや台湾積体電路製造(TSMC)、韓国サムスン電子などのトップに対し、日本の半導体製造拡大に一役買うよう呼びかけた。
エヌビディア関係者はこれまで、最高のAIインフラを構築したいという各国の願望について発言している。フアンCEOは直近の決算発表の電話会見で、各国には「スキルがある。当社と力を合わせれば、実現するのを支援できる」と述べた。同社はそれ以上のコメントを差し控えた。
こうした会合を持つことで、政府は半導体のサプライチェーン(供給網)を理解し、イノベーション(技術革新)を重視していると国民や国内の業界に示すことができる。政府間の半導体外交について報告書を公表した独シンクタンクSNVのヤンペーター・クラインハウス氏はそう話した。「国のトップや政府高官にとって、高度に革新的な企業と付き合いがあることは概して気分がいいことでもある」
12月にオランダを公式訪問した韓国の政府代表団にとって、最も重要な訪問先はASML――先端半導体の製造に不可欠な最先端の露光装置を世界で唯一製造している――の本社だった。代表団には同社の顧客であるサムスンとSKハイニックスのトップも加わった。
ASMLは数年分の受注残高を抱えている。世界最先端の半導体を製造する体制が整っているのはサムスン、TSMC、インテルの3社だけで、それぞれASMLの次世代露光装置をいち早く手に入れようと競い合っている。
韓国政府関係者は4日間のオランダ訪問中、半導体分野でのオランダとの協力は本格的な半導体アライアンスに変化したと述べた。韓国の方文圭(パン・ムンギュ)産業通商資源相は、ASMLとサムスンが韓国での研究センター建設に共に投資することにより、高性能の半導体の製造で韓国が優位に立つだろうと話している。
退任が決まっているASMLのピーター・ウェニンクCEOは9月、大学生を前にした講演で、政府が補助金を支給するようになったことはプラスだと述べた。だが、半導体の明確な長期ビジョンを描いている国はほとんどない。国家のイノベーションの基盤として半導体を重視していることから、韓国――そして同国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領――は例外だとウェニンク氏は指摘。「われわれは現在、不利な立場にある。各国の政府と政治がばらばらだからだ」と同氏は述べた。
半導体メーカーはまた、さらなる補助金の獲得に向けてロビー活動を展開する中で、政治の世界の複雑さやペースの遅さに慣れていった。TSMCが米アリゾナ州で進めている工場建設プロジェクトは台湾では起きなかったであろう労働問題のせいで遅れている。米国では2022年、半導体関連に530億ドル(約7兆4700億円)の補助金を投じるCHIPS法が成立したが、同法を所管する商務省はこれまでに3500万ドルの補助金しか決定していない。
SNVの報告書によると、国家安全保障や経済競争力に対する半導体の重要性が増す中、2021年以降、政府間で半導体に関係する数十の連携が構築された。これらは政策協調、労働力の開発、サプライチェーンの監視などに重点が置かれている。これまでこのような連携はほぼ存在しなかった。
半導体メーカーは、地政学的な議論に巻き込まれることに早急に適応することを余儀なくされた。エヌビディアを含む大手企業の一部でさえ、最近までワシントンにロビー活動の拠点を置いていなかった。エヌビディアの中国向け半導体を巡り米国の輸出規制が強化され、同社は2023年、ワシントンで自社の主張を伝えるためロビイストを数人雇った。
業界関係者によると、政府高官が貿易代表団に参加することは近年まで珍しかった。多くの関係者は政府高官の代表団参加について、新たな世界のビジネス秩序――米国や日本、韓国、台湾、欧州各国といった友好国が互いに半導体産業の構築を支援し、中国を排除する――の始まりと受け止めている。
アリゾナ州フェニックス大都市圏経済協議会のクリス・カマチョCEOは最近、マルク・ルッテ首相率いるオランダ代表団を迎えた。首脳が加わった代表団はカマチョ氏のキャリアで初めてだった。アリゾナ州ではインテルが長年操業しているほか、TSMCがフェニックス近郊に工場を建設するなど、同州は近年、半導体投資の拠点となっている。
「第2次世界大戦以降、われわれは大規模な世界進出の時代を経験した。次の時代は友好国が協力してデジタル経済の成長にどう対応するかを判断する時代になると思う」とカマチョ氏は話す。「敵はおそらくその方程式から取り残されるだろう」
オランダ代表団のアリゾナ州訪問中、オランダ半導体製造装置メーカーのASMインターナショナルは3億ドルを投じて同州にある研究開発部門を拡張すると発表した。同社のベンジャミン・ローCEOも代表団に加わっていた。
「半導体が注目されていることを考えると、最近はビジネスと政治を完全に切り離すことは難しい」とロー氏は話した。



