「本当に頭がよくなる能力は、暗記力や理解力ではありません」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
頭の良さは関係ない?
「どうせ勉強したって頭が悪いから意味がない」
そんなふうに学習の意欲を自分で下げてしまっていませんか?
最近は「親ガチャ」など、生まれた時点で人間の能力や人生が決まってしまうという悲観的な意見が目立ちます。
たしかに知能など、遺伝的な側面が大きく人間の理解力や処理能力には個人差があり、それらの分野で差を感じることがあることは事実でしょう。
ですが、最近の研究では「頭の良さ(理解力や処理能力などの古典的な知的能力)だけでは成績に反応されなくなってきている」という話をご存じでしょうか?
今回はそんなお話について共有したいと思います。
頭はいいのにうまくいかない人
あなたのまわりにも「頭は良さそうなのにパッとしない」という人はいませんか?
学校の成績も部分的には天才的なのに、総合するとそれほど成績が良くない。
本人が小学生までは“神童”なんて言われていたのに、高校で中退してしまった。
そんな「頭は良いはずなのに、なんでかそれをうまくいかせていない」と感じる人はだれでも会ったことがあると思います。
本人がそれで満足できていれば良いのですが、そのせいで人生がうまくいかなくなったり、達成感を得られなくなってしまう人もいると思います。
なぜ、そんなことが起こるのでしょうか?
それは、昔と今で“かしこさ”の定義が時代に合わせて変化していることが原因だと考えられています。
現在、この文章を読んでいるであろう30~40代くらいのビジネスパーソンの人たちは、「かしこさ」といえば、知識が豊富で、難しいことや難解な問題を解決する能力が高い人というイメージを持っているでしょう。
ですが、そのような「かしこさ」も社会の変化によって変化しています。
学校制度や入試制度も変化していて、社会で必要とされる能力や、成績を伸ばすための勉強の手法も変化していて、社会に必要とされる「かしこさ」の定義もまた変化しているのです。
本当に頭が良くなる新しい能力とは?
そんな中、ノルウェーで40年間(1950-1991年)にわたって収集されたデータを分析する研究が行われました。
その結果、認知能力と学歴の相関関係は年々変化しており、計算力や記憶力といった認知能力よりも、モチベーションや忍耐力といった精神的な力のほうが成績向上に重要であることが示されているのです。(注1)
このような結果となった要因としては色々と考えられますが、その中でも労働市場、教育市場などの社会の変化による影響が大きいとも考えられているのです。
このような結果からも、学歴や成績はもはや認知能力を示す指標としての効果は薄れており、時間の経過とともに関係性が弱まっていることを示しているのです。
この研究では、「成績は学習能力を示してはいない」ということを示しているものではありません。
ですが、成績においては学習能力だけでなく、前述したようにモチベーションや忍耐力など、幅広い能力が必要とされるように変化していることを示しているのです。
このような変化は、何も学業だけに当てはまるものではなく社会の変化を表していると思います。
かつての「かしこさ」はよく言う“ガリ勉”とか、“勉強の虫”といったイメージを持たれていました。
同じく社会に出ても、ただ指示を聞き、真面目に仕事だけをこなす能力が求められていました。
ですが近年の社会では、ただ真面目なだけでは「指示待ち人間」と評価されて、使い潰されるだけになってしまいます。
そのため、広い分野の情報を収集したり、いろんな人とのコネクションを取れたり、ゼロから新しい事業を立ち上げたりと、いわゆる「容量の良さ」が「かしこさ」と見なされることが多くなっています。
そんな必要とされる能力の“多様性”こと、これからの社会では求められているのでしょう。
そんな中で、年代が変わってもずっと必要とされる能力こそ、「モチベーションを高める能力」と「忍耐力」です。
これらの能力は高めようとしてもすぐに身につくものではありませんが、認知能力が必要とされる勉強以上に、学習することで高めることができます。
(注1)Van Hootegem, A., Røgeberg, O., Bratsberg, B. et al. Correlation between cognitive ability and educational attainment weakens over birth cohorts. Sci Rep 13, 17747 (2023).
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が特別に書き下ろしたものです。)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。