「これまで講演されていたような焼き直しばかりで、目新しい内容は何もなかった」
具体的な現場の臨床や取り組み例などを期待してやって来た引きこもり本人やその家族たちは、そう言ってガッカリと肩を落としていた。
「引きこもり」セミナーなのに
引きこもりへの配慮がない!?
みぞれの舞う東京大学・安田講堂(東京都文京区)。日中の最高気温がわずか4度と、凍てつくような寒さの2010年2月13日、内閣府主催(厚労省後援)の公開講座「ひきこもりを考える」が開かれた。そして、こんな悪天候の土曜日にもかかわらず、会場の講堂内は2階席までギッシリ埋まる1000人以上もの受講者で溢れ、改めて引きこもり問題に対する関心の高さを伺わせた。
中でも、特筆すべきは、厚労省が今年3月中に公表する予定の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン(案)」の概要が、初めて紹介されたことだ。この新ガイドライン案については、後に触れるとして、引きこもり本人や家族たちが、冒頭のように物足りなさを感じたのも無理はない。
そもそも、国が「ひきこもり」支援についてのシンポジウムを開くこと自体、初めての試み。しかも、今回は4月1日から施行される「子ども・若者育成支援推進法」に向け、それぞれの地域で、彼らを支援するネットワークを立ち上げてもらうための関係者向け世論喚起が、第一の目的だったからである。
内閣府によれば、当初想定していた受講対象者は、行政機関や支援者、医療関係者などの専門職だった。ところが、フタを開けてみたら、引きこもり本人や家族などの一般者もドッと押し寄せ、その半数を占めていたのだという。
会場には、若い女性の姿も目立った。心理学を学ぶ学生や、カウンセラー志望者もかなり含まれていたのだろう。
当日配られたアンケートの「あなたのお立場についておうかがいします」の回答に対しても、「国家公務員、地方公務員」や「支援者」「医療従事者」「研究機関」「教員」「家族」などと細かく選択肢はあるのに、「ひきこもり本人の項目がない」と、配慮のなさを訴える関係者もいた。