2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、ベストセラー『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が1月31日発売になる。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要なマインド・思考・スキル・フレームワークについて解説していく。ぜひ最後までお付き合いいただきたい。

起業家の右腕=起業参謀が身につけるべき「5つの眼」とは?Photo: Adobe Stock

起業参謀が持つべき「5つの眼」とは

 現在、生成AIが社会を席巻している。

 ChatGPT-4が2023年3月にローンチされてから、その後も生成AIを活用したソリューションの進化が加速している。以前から取り沙汰されていたことではあるが、様々な仕事がAIによって代替される社会が、いよいよ現実味を持って迫ってきた。

「自分の仕事は、果たして残るのだろうか……」

 このような目に見えない不安を抱えるビジネスパーソンも、少なくないだろう。

 こうした人たちにお伝えしたいのは、どんなに生成AIが進化したとしても「起業家の右腕となる起業参謀の仕事は、残り続けるだろう」ということである。そのように考える理由は、大きく2つある。

 1つ目は、AIは1つのある特定の目的に立って作業を効率よく進めることは得意だ。ただ、必要に応じて複数の視点を行き来しながら、切れ味の鋭い意見を言ったり、示唆を出すことは、現段階においてはかなり難しい。

 私の考える起業参謀とは、「鳥の眼」「虫の眼」「魚の眼」「医者の眼」「人(伴走者)の眼」という5つの視点を行き来しながら、起業家の視座を拡大/整理してアドバイスやメンタリングを行える存在のことだ。

 マクロ(全体視点)とミクロ(極小視点)を行き来して、抽象と具体を駆使して、スタートアップを成功させる勝ち筋へのストーリーを起業家と作っていくのが、彼らの仕事である。

 刻々と変化する時流や文脈に沿って、様々なフレームワークを活用し、整理/幅出し/発散/優先順位づけを行いながら価値を提供していくのだ。

 単純に知識や情報を提供するだけなら、人間よりもAIのほうが優秀だろう。しかし、一見何の関連もなさそうなところを抽象化してつなぎ合わせ、気づきを与えながら腹落ちさせて起業家を動かしていくということは、AIにはまだ不可能だ。それこそが起業参謀の役割だ。

人間は、AIを「すごい」と感じても
尊敬はしない

「メラビアンの法則」が唱えるように、「人を動かすため」に重要なのは非言語の伝え方そのものだ(自信や実績に裏付けされた空気や表情)。そこを代替するのは、今後もAIには難しいだろう(ただ、この領域における昨今の進化には目を見張るものがある)。

「他の人間から信頼/尊敬されること」が人間の最大の強みで、人間はAIを「すごい」と感じるが尊敬はしない。結局のところ、人間は「自分が信頼/尊敬する人」からの言葉に動かされるものだ。

 起業家と起業参謀の対話やメンタリングでは、信頼やリスペクトが土台にある。「AIやテクノロジーに奪われない武器」を持ちたいビジネスパーソンに、ぜひ読んでいただきたいと考えている。

 本連載では、実践で使える思考法やフレームワークについて解説していく。すでに起業されている方、今後、起業を目指す方々にも役立つ内容になっている。

 私は年間で500~600人(社)のアドバイス/メンタリング/壁打ちを行っている。世の中には、数多くのフレームワークや思考法が存在するが、私の最新刊『「起業参謀」の戦略書』では、私が実務上、最も有効活用できるものを厳選してまとめた。

 これらの知見やスキルを身につけることによって、より付加価値を提供できるビジネスパーソンになる一助になることを確信している。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。