面白いことは足もとに転がっている!
発想の転換で価値観をひっくり返したい

米田:僕の新刊『僕らの時代のライフデザイン』のなかで、「あいだ」という言葉をけっこう使ったんだけど、鈴木くんが場所を作るというのも、移動と定住の「あいだ」を往復するためだよね。1つの対象にいるとそこに埋没しちゃって、そこの魅力や価値を見失うこともあるから。

鈴木:そう、新鮮にいろんなものを見られるという意味もあるよね。それから個人が移動するだけじゃなく、もっとメタな部分での移動もあると思うんですよ。たとえばサンフランシスコに行くと、ものすごく日本文化の影響を感じるんですよね。座禅とか瞑想をする人がたくさんいたり、マクロビが広まっていたり。日本のよさや美も、外部にいるから気づくということもある。

 で、僕も両親が日本人とイギリス人なので、常に境界線上にまたがっていて、外からの視点を持たざるを得なかった。そうやって心の面でも移動しながら、いろんな角度でものを見る面白さはあるなと思う。

米田:僕は「ノマド・トーキョー」で1年間ふらふらしていたとき、東京も視点を変えてみるとすごく面白いなと思ったんだよね。東京という都市の再発見でもあり、そこで暮らす自分自身の再発見にもつながったんですよ。

鈴木菜央さん

鈴木:そうそう、最近浅草に遊びに行ったんだけど、そのディープさに改めて驚きましたよ。外国に行くのと同じくらい新鮮で。

米田:僕もある街に初めて行ったとき、普段体験できないシーンに出会って。そこにはフィリピン人街があって、国旗が店の横に飾ってあったり、昼間に喫茶店でフィリピン人の女性たちがタガログ語でおしゃべりしていたりするんですよ。全然知らなかったけど、こんな東京の光景もあるんだなあ、と。

鈴木:見る角度によっては、東京にもまだまだ面白いところがいっぱいある。それなのに全然行けてないな、と反省しました。「お金がないとどこにもいけないから人生を楽しめない」という固定観念を持っている人が多いけど、実際ちょっと視点をずらして動いてみると、身近な場所もこんなに新鮮なんですよね。つまり、金持ちにも貧乏人にも等しく面白いことに出会えるチャンスがあるわけですよ。それも米田さんの本を読んで勇気づけられたことの1つでした。

米田:やっぱり面白いことって、足もとに転がっているんですよね。お金がないと何もできないとか、世界一周しないと面白くないとか考えると、ちょっと悔しいじゃないですか。そこにアイディアの力とか発想の転換を取り入れて、価値観をひっくり返すようなことをやりたいなといつも思っているんです。

 いや、でもさ、お金があるほうが逆に不自由な面もあるかもしれないよ。人ってやっぱり、一度生活レベルが上がるとなかなか下りられなくなるものだから。1回飛行機でビジネスクラスに乗っちゃうと、もうエコノミーに乗れなくなる、みたいな。

鈴木:そんなこと、言ってみたいけどね(笑)。

米田:確かに(笑)。まあ、20代くらいでビジネスクラスに1回乗って、「俺もここまできたな」と思うのは否定しないし、若い世代がそういう夢を目指すのは悪いことじゃないと思うけど。一方で最近はLCC(格安航空会社)も出てきたから、1万円とか2万円でも海外に行けるじゃないですか。つまりそういうチケットをパッと取れる自由とか行動力さえあれば、今や誰でも世界に出ていけるという側面もある。そういう環境が整って、実際に活用している人が増えてきたことって、今までの「お金がないと旅行できない」とか、「休暇をとらないと海外に行けない」という価値観をひっくり返したな、と思いますね。(後編へ続く)※4/2掲載予定です


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