現代人は「慢性的で容赦ないストレス」に押しつぶされ、頭も肉体も、そしてメンタルも疲れ切っている。私たち人間が本来持つ「エネルギー」を取り戻すには、どうすればよいのだろうか? 本連載では、スタンフォード大学で人気講義を担当し、億万長者の投資家、シリコンバレーの起業家、アカデミー賞俳優のコンシェルジュドクターでもあるモリー・マルーフの著書『脳と身体を最適化せよ!──「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』から人生最高の時期を引き延ばし、生活の質を最大限に高め、幸福度を増し、慢性疾患の発症リスクを下げる「最新の健康法」を紹介する。(初出:2024年2月18日)
運動で頭がよくなる!
運動はオートファジー(死んだ細胞の除去)とマイトファジー(損傷したミトコンドリアの除去)を活性化する。これによって、老廃物が排出され、新しい細胞のためのスペースがつくられる。
さらに、運動は脳機能を向上させ、神経発生(ニューロン新生)を促す化学物質である脳由来神経栄養因子(BDNF)の放出によって認知力を高める。特に高強度の運動ほどその効果が高まる。
BDNFは新たな神経結合をつくる動力を供給し、ニューロンにミトコンドリアを補充できるようにする。
神経結合が増えれば、記憶力や学習力が高まり、気分が落ち着き、老年期に認知症を発症するリスクが低下する。
2020年の研究によれば、中強度の運動を20分間1セッション行うだけで、海馬への血流が増加するという。
海馬は記憶力と認知力に関係しているため、海馬への血流が増えるほど、脳の働きが良くなる。
一方運動しなければ、各臓器系の処理能力が低下し、さらには省エネ戦略として、通常より早く脳の萎縮と老化が始まる。
運動は老化も抑制する
「老化のミトコンドリア理論」は、損傷したミトコンドリアDNAとミトコンドリアの蓄積が老化の原因であり、これがミトコンドリアの機能を損ない、エネルギー容量を低下させると仮定している。
この理論によれば、老化とよく関連づけられる変性を遅らせるには、酸素運搬能を高めるとともに、正常に機能するミトコンドリアの質量を増やす必要がある。運動によって、この両方の目標を迅速かつ効果的に達成できるのだ。
この理論を検証した研究では、老化プロセスを早めた欠陥のある遺伝子組み換えマウス群を研究者がつくり出した。
そのマウスに5ヵ月間持久運動をさせたところ、マウスは再びミトコンドリアの生成を増やし始め、細胞が変性することも死ぬこともなくなった。
別の研究では、薬を投与してミトコンドリア生成のスイッチを切った欠陥のある遺伝子組み換えマウス群をつくり出した。
その影響はすぐに表れ、マウスは皮膚のシワや炎症、脱毛といった早期老化の明らかな兆候を示した。その後、研究者は薬の投与をやめ、マウスのミトコンドリア生成を元に戻した。
これがマウスに劇的な若返り効果をもたらした! マウスの肌のシワは消え、毛も再び生え始め、数ヵ月後には見た目がすっかり元通りになった。
(本記事は『脳と身体を最適化せよ!──「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』から一部を抜粋・改変したものです。)