美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。
なぜ、同じような絵が2枚も?! 裁判でも口を割らなかった、ある秘密とは?
──わっ! これも有名ですね! あれ…似たような絵が2枚ありますよ?
スペインの画家ゴヤによって描かれた「裸のマハ」と「着衣のマハ」です。2枚あることが謎めいていますよね?
──ほんとですね~。顔を見ても同一人物。ベッドもポーズも何もかも同じ。ただ服を着ているか裸かの違いか…。そもそもこの人は誰なんですか? あ、「裸のマハ」だからマハさんか。
いえ、よくそう言われるんですが、マハというのは名前ではなくスペイン語で「粋な女」という意味です。つまり、「裸の粋な女」「着衣の粋な女」ということですね!
──え、ややこし~(汗)。じゃあ彼女は一体誰なんですか?
この絵は当時スペインを牛耳っていたゴドイという宰相の依頼によるものだと言われているため、彼の愛人のペピータというのが定説です。
ただ、もしかするとゴヤとのロマンスが噂されたアルバ公爵夫人かもしれないという説もあり、定かではありません。
──なるほど。でも恐ろしくなまめかしい絵ですよね。どうしてこんなにいやらしく感じるんだろう…。
ふふ、そうでしょう? なんてったってゴヤはこの絵を描いたことで何度も裁判に呼ばれることになるんですからね。それがどうしてかわかりますか?
──え~! 裁判!? う~ん、裸だからっていうのは当たり前すぎますよね? え、まさか…胸が離れすぎているからとか…?
それも絶妙に気になりますがちがいます(笑)。正解はこの女性のお股に…陰毛が描かれているからです!
──えっ! ほんとだ! ちょっとびっくりしちゃいますね…(汗)。
ですよね? この絵は、「西洋美術史上、初めて実在の女性のアンダーヘア」を描いたことで有名なんです。現代の私たちですらびっくりしてしまうくらいですから当時の衝撃は計り知れません。
しかもお国は倫理観の一段と厳しいスペインです。「こんな不謹慎な絵を自発的に描いたのか? それとも誰かからの依頼で描いたのか?」を争点にゴヤは何度も裁判所に呼ばれました。
最終的にゴヤは口を割ることなく、友人の助けにより無罪放免になったようですけどね。
──よかった~(汗)。で、実際のところどうして2枚あるんでしょうか?
はい、その真実を読み解いていくヒントとなるのが、2枚の絵の出どころです。実は両方ともゴドイの邸宅から見つかっているんです。
つまり彼がどちらの作品も所有していたということ。その状況からみてなぜ2枚あるのかプロファイリングすると…。
──すごい。推理ドラマみたいですね…。その真相は…!!
普段は「裸」を掲げていますが、誰かが来たときに恥ずかしいから、そのときは「着衣」を上にかぶせて、帰ったら「裸」に戻す…というカモフラージュのために着衣が描かれたのではないかというのが有力な説です。
──しょーもなぁー!! ほんとにそんなしょうもない理由なんですか…!?
真実は、いつも一つ!(知らんけど)
(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)