ゴールドマン・サックスなど外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「日本一」と「収益拡大」を達成。現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三さん。初の著作である『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)では、ビジネス現場での「成功」と「失敗」を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いていただきました。リーダーだからといって「格好」をつけるのではなく、自分の「欠点」や「弱点」を素直に受け入れて、それをメンバーに助けてもらう。つまり、「リーダーは偉くない」と認識することが、「強いチーム」をつくる出発点だ――。そんな「立花流リーダーシップ」に触れると、きっと勇気が湧いてくるはずです。

東北楽天ゴールデンイーグルス元社長・立花陽三氏が明かす、「痛恨の大失敗」から学んだ“リーダーシップの秘密”写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「本物のリーダー」は何を考えているか?

 はじめまして、立花陽三と申します。僭越ながら、このたび、初めての著書『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)を出版することになりました。

 このタイトルを見て、「どういうこと?」「そんなわけないだろ?」などと違和感をもった方もいらっしゃるかもしれません。その違和感、ごもっともだと思います。僕自身、これまで何人かの「本物のリーダー」にお目にかかってきましたが、どなたも人格的に尊敬のできる「偉い人」ばかりでした。その意味では、「リーダーは偉い」と言うべきなんだと思います。

 だけど、周りの人々から尊敬され、周りの人々を元気にして、チームの活力を最大化するような「本物のリーダー」は、どなたも「自分は他の人よりも偉い」などとは露ほども考えていないように見えます。というよりも、そんなところに気持ちが向かっていないと思うのです。

「リーダーシップ」が崩壊する瞬間とは?

 むしろ、「自分は他の人よりも偉い」などと思い上がった瞬間に、リーダーシップは崩れ去ってしまうのではないでしょうか。メンバーは、リーダーがもつ権力を恐れて、表面的には従順を装うかもしれませんが、内心ではそっぽを向いている。その結果、組織が機能不全へと陥っていく……。そのことを、僕自身、痛恨の失敗を通して思い知らされたのです。

 あれは、僕が39歳のときのことです。
 1994年に大学を卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)、ゴールドマン・サックス証券と渡り歩いていた僕は、2010年にメリルリンチ日本証券(現BofA証券)の経営陣のおひとりに声をかけられ、「メリルリンチの業績を上げるために、力を貸してほしい」と依頼を受けました。

 その方を尊敬していたこともあって、意気に感じた僕は転職を決意。そんな僕を、メリルリンチはこれ以上ないというほど丁重に扱ってくれました。

 入社するにあたって、「債券営業統括本部長」という肩書きを与えられ、数十人規模の営業部隊を統括するポジションに就任。さらに、豪華な個室をあてがわれたうえに、「秘書は何人つけましょうか?」とお伺いを立てられる……。まさに、“VIP待遇”だったのです。

メリルリンチでの「痛恨の失敗」

 これで僕はすっかり勘違いをしてしまいました。
 要するに、「偉そう」にしてしまったんです。

 いや、あの頃の僕だって、「偉そうにしちゃダメだ」と自分に言い聞かせていたんです。さすがの僕も、そのくらいのことはわかっていたつもりです。だけど、調子に乗った生意気な若造だった僕は、ちょっとチヤホヤされただけで、自分の「真実の姿」をいとも簡単に見失ってしまったのです。

東北楽天ゴールデンイーグルス元社長・立花陽三氏が明かす、「痛恨の大失敗」から学んだ“リーダーシップの秘密”立花陽三(たちばな・ようぞう)
1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏(三井住友銀行取締役専務執行役員)との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。託された使命は「優勝」と「黒字化」。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。また、球団創設時に98万人、就任時に117万人だった観客動員数を182万人に、売上も93億円から146億円に伸ばした。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。