30代で東証プライム上場企業の執行役員CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)となった石戸亮氏が、初の著書『CDO思考 日本企業に革命を起こす行動と習慣』(ダイヤモンド社)で、デジタル人材の理想的なキャリアについて述べています。
デジタル人材は、ビジネスの現場でどのように求められているのか。
本当に需要のあるデジタル人材として成長するためには、どんなスキルを身につければいいのか。
デジタル人材を喉から手が出るほど欲している企業に迎え入れられ、そこで重用されるには、どんな行動を取ればいいのか。
本連載では、デジタル人材として成長するためのTo Doを紹介していきます。
トラックドライバー50人にインタビュー
ある時、物流分野で新規事業を、という話が出ました。マーケットサイズが大きく、白地だったトラックドライバーさん向けのサービスです。社内では私が関わる前からターゲットリサーチに着手しはじめていたようなのですが、半年経過してもなかなか具体的な内容に進んでいなかったようです。そこで私に白羽の矢が立ったのです。しかも「2、3週間以内にリサーチを完了すべし」という厳しい期限付きで!
物流市場はたしかに大きいので、新規事業が参入に値することは確か。ただ、トラックのメーカーや運送会社やトラックドライバーさんたちとは、ほぼ何の付き合いもつながりもありませんでした。リサーチ会社に相談してもN数、つまりトラックドライバーさんのサンプル数が思ったように確保できない。ターゲットの実態が不明だったのです。
当時、社内では「トラックドライバーさんたちはITリテラシーが低いだろうから、スマホを使いこなしていないのでは」と思われていました。でも、本当でしょうか?
私は千葉の松戸市出身ですが、地元中学の同級生に運送会社勤務の友達がいたので、まずはその伝手でトラックドライバーさんを紹介してもらいました。
また、親戚の叔父がたまたま運送会社勤務だったので相談してみると、二つ返事で協力してくれるとのこと。トラックドライバーさん同士は横のつながりがあるので、所属する運送会社を越えて、千葉や茨城のトラックドライバーさんを50人くらい紹介してもらったのです。
こうして紹介してもらったドライバーさんたちのトラックに乗せてもらい、直接話を聞くことができました。運送会社の事務所にもついて行き、生々しい状況を見させてもらう。貴重な生データ。これ以上に新鮮な一次情報はありません。
結果、わかったのは、トラックドライバーさんの携帯利用は非常にヘビーで、多い方で1ヵ月に7万円もスマホ周りに課金しているという事実でした。仕事の性質上、停車したトラックに乗ったまま長時間待機することが多いので、ゲームや配信動画にたっぷり課金しているネットのヘビーユーザーなのです。
また、運転中眠らないためにハンズフリーで電話し続けている人も多く、キャリアの無制限プランを契約している率も高い。「トラックドライバーさんたちはITリテラシーが低いから、スマホを使いこなしていない」は、まったくの嘘だということが判明したわけです。
ベンチャー企業の経営者は、当たり前のようにこのような行動をしています。新しいサービスを立ち上げようと思ったら、簡単にターゲットに会えない。そういう時こそあらゆる手段を使って、とにかく色々な人に直接話を聞きに行く。
私がそんな行動をしていたら、「そもそも、そんなことやっていいのですか?」と言われたことがあります。大手企業の社員はそれをやらない人が多いです。また「石戸さんの立場でそんなことするのですか? 現場メンバーに任せないのですか?」とも言われます。全て一人でできるわけはないので、もちろんメンバーに任せることも重要ですが、本気で新規事業やサービスを立ち上げる際には役員だろうが部長だろうが、幹部社員であっても自ら動くのは重要です。
大手企業の幹部は、現場メンバーが調べてきた新規事業の話を会議室のテーブルの向こう側で評価するのです。今まで経験や感度の無い新規事業を一生懸命現場は調べるのですが、評価者側が一次情報に触れていないから、なかなか決断もできない。ここにDXが進まない摩擦があります。
DXとか新規事業のような、今までになかった新しいプロジェクトを始める際には、それが大企業の中のことであっても、ある種スタートアップ的な心構えで取り組まなければ成功しません。新規サービスを任された時は、起業家になったつもりでガンガン攻めていきましょう。
※本稿は『CDO思考 日本企業に革命を起こす行動と習慣』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。