「コンサルティング業界の人気は高まり続けているのに、誰もコンサルティング業界のことを理解できていない」──。そう嘆くのは、コンサルティング業界に特化したエージェントとして、17年間転職支援をしてきた久留須 親(くるす ちかし)氏だ。久留須氏はコンサルティングファーム志願者の「駆け込み寺」として、マッキンゼー、BCGなどの経営戦略系ファーム、そしてアクセンチュア、デロイトなどの総合系ファームに、多くの内定者を送り出してきた。著書『「コンサルティングファームに入社したい」と思ったら読む本』では「ファームに入社した人の共通点」「具体的にどんな対策をすれば受かるのか」「入社後活躍する人とは」などについて、史上初めて実際に入社した3000人以上のデータを分析し「ファクトベース」で伝えている。「コンサルティング業界への転職を考えている」という人はもちろん、「キャリアチェンジを考えたい」さらに「コンサルタントのスキルが気になる」という人まで役立つ一冊だ。
今回は、本書の内容から一部を抜粋・編集し、「コンサルティングファームに入社した人の共通点【学歴】」のデータを紹介する。

問われるのは「最終学歴」ではなく「大学入試」での地頭力

 優秀、地頭がいい、ロジックが強い……。コンサルタントに対するイメージから、「偏差値がトップクラスの大学を卒業していないとコンサルタントにはなれない」と思っている人はとても多いです。実際に「私の学歴だと、コンサルティング業界は難しいでしょうか?」「あきらめたほうがいいでしょうか?」という質問をよく受けます。
 これに対して私は「『高学歴だと有利』という現実はあります。でも『高学歴でないとダメ』という時代は終わりました」と回答しています。具体的にどういうことなのか、ファームの選考の基準について詳しく解説していきます。

 前提として、コンサルティングファームの中途採用における学歴の見方は大きく次の3つに分かれます。どのファームも、ほぼ共通でこの分類と考えてください。いわゆる大学受験のときの偏差値とほぼ一致します。

学歴①:戦略6大
 東京大学、京都大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、一橋大学、(有名医科大学、海外トップ大学)
学歴②:国立上位大・私立上位大・GMARCH・関関同立
 旧帝国大学、上位国公立大学、上智大学、国際基督教大学、東京理科大学、GMARCH(学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)、関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)、海外大学
学歴③:上記以外

 ファーム側が学歴を見る一番の理由は「面接のキャパシティ」です。100名規模のファームの場合、面接官を担当する一定以上の役職者は、多くても約半数の50名ぐらい。もし数百名の書類が届いた場合、全ての候補者を面接するのは物理的に不可能です。そのため、致し方なく書類選考を行う必要があり、その際に多くの求職者が経験している大学入試時の偏差値を「思考力に見立てて」判断基準としています。ゆえに、実はファームの規模が大きくなると書類が通過する人の学歴も幅広くなります。

 このような理由から、マッキンゼー、BCG、ベインなどの規模が小さい外資経営戦略系ファーム(多くが100~200名規模)は、学歴①の「戦略6大」はほぼ全員書類を通し、学歴②の「国立私立上位大・GMARCH・関関同立」は職務経歴も見て判断することが多いです。

 一方、アクセンチュア、デロイト、PwCなどの大手総合系ファーム(数千名規模)は面接官の人数にも余裕があるため、学歴②はほぼ全員書類を通し、学歴③は職務経歴と併せて選考することが多いです。
 ちなみに、ファームが見ている学歴は「最終学歴」ではありません。「大学入試(学士の学歴)」を参考にしています。そのため、高校入試までさかのぼり、有名私立進学校出身の場合はプラスアルファの評価になります。

 一方で近年、この基準が大きく変わってきています。すなわち、学歴での「選考基準」がかなり緩和されてきました。理由は3つあります。

 ひとつめの理由は、ファーム側に学歴にとらわれずに採用できるノウハウが蓄積されたからです。コンサルティングファームが長年採用と育成を行ってきた結果、「どのような資質や傾向を持った人なら一人前のコンサルタントとして育成できるか」を見抜けるようになってきました。

 2つめの理由は、プロジェクト数の増加です。ファームの規模を拡大するためには、プロジェクト数が増えなければなりません。プロジェクト数を増やすためには、これまで手掛けていなかった業界を手掛けたり、よりクライアントに深く入り込んだりするので、プロジェクトの業界とテーマの幅が拡がります。その結果、クライアントからより高い専門性(業界・テーマの知見)を求められるようになり、学歴だけでなく、職務経歴やスキルも含めて選考が実施されるようになったのです。

 3つめの理由は、コンサルティングスキル(ロジカルシンキングや経営学的知識など)が一般にも普及し、ポテンシャルが高い人が増えたからです。10年以上前は、候補者との面談の中でロジカルシンキングやフレームワークについてゼロから説明することも多かったですが、今では多くの人が既に知っています。また、教育の内容・質が時代と共によくなっているのもあると思います。私がこの仕事を始めた頃と比較して、学歴に関係なく「自ら考え、自らの意見を持ち、自らの言葉で伝えることができる」人が増えていると感じます。卒業大学によってごく限られた人だけしかコンサルタントになれなかった時代は終わりつつあるのです。

(※本記事は、『「コンサルティングファームに入社したい」と思ったら読む本』から抜粋・編集したものです)

【データの分析方法について】ムービン・ストラジック・キャリア調べ
ムービン・ストラテジック・キャリアの入社実績データを使用(N=のべ3042名)。ムービンの特徴は、ホームページからの登録が主であり(一部スカウトもあり)、各ファームの紹介実績人数はほぼ毎年1位か2位。ゆえに、ムービンの実績をコンサルティングファーム全体の傾向としても大きな誤差はないものと考慮。
入社実績の対象ファームは下記。
経営戦略系ファーム10社:マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストン コンサルティング グループ、ベイン・アンド・カンパニー、アーサー・ディ・リトル、A.T.カーニー、Strategy&、ローランド・ベルガー、ドリームインキュベータ、アクセンチュア(経営戦略部門のみ)、デロイト トーマツ コンサルティング(経営戦略部門のみ)
総合系ファーム6社:アクセンチュア(経営戦略部門・エンジニア部門・アウトソーシング部門除く)、デロイト トーマツ コンサルティング(経営戦略部門除く)、PwCコンサルティング(Strategy&除く)、EY ストラテジー&コンサルティング、KPMGコンサルティング、アビームコンサルティング