フリードマンは矛盾している!? リフレ政策は先食いにすぎない
山口 小幡先生の著書『リフレはヤバい』を読んで痛感しましたが、アベノミクスに対する僕のスタンスは先生と同じなんです。基本的に僕は紳士的な人間なんですが、先日の深夜、ついつい気持ちを抑えられなくてフェイスブックに「アベノミクスのク○ッ○レ!」と書き込み、大論争になっちゃいました(笑)。
小幡 ちっとも紳士的じゃないよ(笑)。
山口 社会にとって、価値と信用を創り出すことが何よりも重要であるにもかかわらず、今は、ただ価値と信用を希薄化しているだけだからです。
小幡 それで、具体的にどういった観点について僕の考えに同意しているの?
山口 円安が進むことは輸出企業など一部の事業者には有利に働くものの、多くの人々にとって通貨価値の低下はむしろ不利益となるというポイントです。それに小幡先生が本に書かれていたように、こうした政策によって経済の実体が変わったことは過去にありませんから。
小幡 今は先食いしているから気づいていないが、円安というのは円の価値と信用を堕としているだけなんだよね。自滅だ。
山口 アベノミクスから連想するのがかつての“株式分割バブル”です。僕はM&Aの専門家なので、かつてライブドアをはじめとする新興企業が繰り広げた派手な株式分割をネガティブに評価していました。株式を分割して発行済み株式数が増えれば、その分だけ1株当りの価値は希薄化することになります。
スケールの違いこそあれ、アベノミクスがやろうとしていることはそれと似た部分があります。お金をどんどん刷れば、その価値と信用は希薄化されていくわけですから。(実態価値に基づいて判断する)ファンダメンタリストの僕としてはなかなか認められない。小幡先生も本に書かれていたように、株価は上がったとしても、実体経済のガソリンにはなっていません。
小幡 そうそう、ファンダメンタリストといえば、非常に皮肉な話があるよ。シカゴ学派のエコノミストたちは実体経済主義者で、「政府が何をやってもムダだ!」と介入政策を批判してきた。ところが、シカゴ学派で最も著名な存在なフリードマンはマネタリズムの構築者で、貨幣の供給量によって経済をコントロールできると考えたんだよね。お金は最も無色透明で単なる価値基準にすぎず、マネーサプライが実体経済に影響を与えてはいけないんだよ。政府の介入もマネーも同じで、実体は動かせない、効かない、とシカゴ学派は考えてきたのに、フリードマンはお金が世の中を動かすと説いているわけだ。シカゴ学派として有名だけど、実は邪道なんだよね。