ほしい食料がなんでも
手に入る時代はそろそろ終わり
前述の通り、日本においては現状を心配する消費者は限られると思う。だが、欲しい食料がなんでも手に入る幸福な時代もそろそろ終わりになるかもしれない。食料の大部分を輸入に頼ってこられた背景には、日本の経済成長とその成果の一部としてため込んだ1兆ドルを超える潤沢な外貨準備があったがためである。
ところが日本の毎年の経済成長率は先進国のなかでも最低かほぼ0%、工業製品が輸出競争力を失いつつあるため輸出に以前ほどの勢いがなくなり、一方で円安傾向がはっきりしたにもかかわらずエネルギー需要の世界的な伸びや資源高などから輸入額が大きく伸び、貿易収支は赤字が拡大、黒字が出てもわずかという体質に陥ってしまった。
貿易収支が赤字体質に変わっても第一次所得収支は黒字だから安心だという声に対して、その黒字の源泉(資産)は海外にあり、その所有者の企業が貿易赤字を埋めるために取り崩すこともあり、外貨状態を円に替えない限り使えないし、他の企業が輸入代金決済に使えるわけでもないのであまり当てにしない方がよいという専門家もいる。
貿易収支が赤字体質に変わったのは円安や新型コロナの前、2008年のリーマンショック以後のことである。もはや以前のように貿易黒字が外貨準備の源泉になるという時代は過ぎ去ったといえるだろう。また貿易がだめなら直接投資収益が大きいから大丈夫ともいえず、輸出力の低下は貿易収支と第一次所得収支の黒字を合わせた経常収支に与える影響が避けられなくなっているのである。
このため、経済力が強く世界の隅々から食料を買いあさってこられたこれまでの日本の購買力が落ちることは避けられない時代に入り、この傾向は今後ますます強くなると見通すことができよう。