42歳でパーキンソン病と診断された精神科医のエッセイが、韓国で売れに売れている。『もし私が人生をやり直せたら』という本だ。「一生懸命生きてきた自分を、もっと褒めてあげたい」「人生に疲れ、温かいアドバイスが欲しいときに読みたい」「限られた時間を大切に、そして本気で生きようと思った」と共感・絶賛の声が相次ぎ、部数は35万部を突破している。
そんなベストセラーエッセイの邦訳が、ついに刊行される。多くの方から共感・絶賛を集める本書の内容とは、いったいどのようなものなのか? 本書の日本版から抜粋する形で、人生のとらえ方について書かれた項目の一部を紹介していく。

「自分は負け犬だ」絶望したあなたを救う、たった1つの方法Photo: Adobe Stock

「自分は負け犬だ」40代男性の告白

 ある40代の男性患者の話です。事業に失敗した彼は、「自分は負け犬だ、私の人生は終わった」と無気力の沼に陥っていました。

 死に物狂いで働いてきたのに惨憺(さんたん)たる結果になったと、やり場のない憤りに苦しんでいたのですが、私がどんな言葉をかけてもまるで伝わりません。それどころかむしろ、私がどんなアドバイスを繰り出してくるのか試してやろうといった態度でいました。毎回、カウンセリングが堂々巡りで終わっていたある時、私は彼に尋ねました。

「もし……、あなたの息子さんが成長して、今のあなたの立場に立たされていたとしたら、何と声をかけてあげたいですか?」

 すると、それまでずっとだんまりを決め込んでいた彼が、久しぶりに口を開きました。

「……誉めてやりたいです。よくがんばったなって」

「息子さんにはそう言ってあげるつもりでいるのに、どうしてご自身には厳しいのですか? あなたこそがんばってきたじゃないですか。ずっとうまくやってきて、たまたま暗礁に乗り上げてしまっただけなのに……」

自分で自分をほめてあげる

 私は彼に対し、がんばってきた自分を誉めてやるように言いました。そして、今は心身ともに疲弊している状態だから、少し休みなさいと勧めました。これまで休みも取らず必死に働いてきて、エネルギーが枯渇している状態なのだと、まずは休んで充電するところからだと伝えました。

 自らにあまりにも厳しく、自分に対して誉め言葉のひとつもかけることなく生きてきた彼でしたが、それをきっかけに、ゆっくり休みながら自分をいたわり始めました。やがて自分のことを「負け犬」などと言わなくなり、数か月後には、これからどんな仕事をするのが自分にとってベターなのか考えていると明かしてくれました。

 状況が変わったことは何ひとつないのに、彼は、彼自身の心持ちを変えることで無気力症から抜け出し、また次の人生を夢見ることができたのです。何よりうれしかったのは、彼が、「どうせやっても無駄だ」と言わなくなったことでした。

(本原稿は『もし私が人生をやり直せたら』から一部抜粋、追加加筆したものです)