新社会人にとって最重要なスキルをひとつだけ挙げるならそれは「言語化力」である――。文章や話し方の専門家であり、話題の書籍『「うまく言葉にできない」がなくなる言語化大全』の著者でもある山口拓朗氏はそう指摘します。「とっさの質問にうまく答えられない」「『で、結局、何が言いたいの?』と言われる」人は言語化力が欠けているのです。本稿では、著者・山口氏が同書のエッセンスを盛り込みながら、新社会人の方に向けて、言語化の重要性や言語化がうまくなるコツなどをお伝えします。
チャットのような受け答えは超NG!
学生生活を終えて社会人となる人たちが、まずぶち当たるのが「コミュニケーションの壁」です。とくに、現代のチャット文化がもたらす「短文コミュニケーション」の習慣は、仕事でのやり取りにおいて、思わぬ障害となることがあります。
以下は、学生Aさんと学生Bさんがやり取りするチャット例です。
Bさん:おわらん。これ、うざい
Aさん:ほんまやな
Bさん:終わったら行くか
Aさん:ええよ
Bさん:<OKマークのスタンプ>
お互いを知り尽くしている友人同士が、行間を読みながら、また、相手の事情や気持ちを察しながらやり取りしています。お互いにストレスがなく、誤解も生じていないとしたら、“問題なし”の判を押すよりほかありません。
しかし一方で、もしこの手のコミュニケーションを仕事に持ち込めば、大きな誤解やミス、トラブルを誘発する恐れがあります。
以下は、上司と新社会人(佐々木さん)の、職場でのやり取り例です。
佐々木さん:まだです
上司:まだ……って、どういう状況?
佐々木さん:今やっています
「まさか?」と思う人もいるかもしれませんが、実際に、このようなコミュニケーションが行われている職場は珍しくありません。上司にとってはフラストレーションが溜まるやり取りです。なぜなら、部下の佐々木さんが、上司が知りたい情報を何ひとつ伝えてこないからです。
佐々木さんの言葉で抜け落ちているのが「5W3H」です。「5W3H」とは、情報をわかりやすく伝えるための基本要素です。
情報を伝える時の基本 5W3Hとは
【5W3H】
■When:いつ・いつまでに(期限・期間・時期・日程・時間)
■Where:どこで・どこへ・どこから(場所)
■Who:誰が・誰に(主体者・対象者・担当・役割)
■What:何を・何が(目的・目標・用件)
■Why:なぜ・どうして(目的・理由・根拠・原因)
■How:どのように(方法・手段・手順・様態・様子)
■How many:どのくらい(程度・数量)
■How much:いくら(価格・費用)
「5W3H」の基本要素を盛り込むことで、相手が求めている情報をヌケモレなく手渡すことができます。
佐々木さん:8割のところまで来ています。残りは売上予想のグラフ作成とイベント概要の掲載です。15時にまでには完成させてA社の中西さんにメールします。
このやり取りであれば、上司も納得でしょう。上司が知りたい情報が過不足なく盛り込まれているからです。佐々木さんが盛り込んだ「5W3H」は以下です。
■When:15時まで
■Who:A社の中西さん
■What:売上予想のグラフ作成/イベント概要の掲載
■How:メール
■How many:8割のところ
「どうなの?」「なぜ?」「誰が?」「いつ?」「どこで?」「どうやって?」――と、上司からよく質問されたり、聞き返されたり、問い詰められたりしている新社会人ほど、自分が伝える言葉の中に「5W3H」を盛り込めていません。つまりは“言葉足らず”です。
仕事でのコミュニケーションは、「察してほしい」が通用する学生時代の短文コミュニケーションとは別物です。むしろ、どんな場面であれ「相手はいっさい察してくれない」という立場に立つ必要があります。
意識すべきは言語化です。「5W3H」の基本要素を言語化することによって、誤解やミスの発生を最小限に押さえつつ、仕事の効率と生産性を高めていくことができます。「短文コミュニケーション」に慣れすぎて言語化を怠ってきた新社会人は、なおのこと「5W3H」の言語化に注力しましょう。
*本記事は、「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」著者の山口拓朗氏が、本書のエッセンスを盛り込みながら新社会人向けに書き下ろしたものです。