スティーブ・ジョブズ氏スティーブ・ジョブズ氏 Photo:EPA=JIJI

故スティーブ・ジョブズの代名詞といえば、iPhoneやMacに代表される、余計な要素を削ぎ落としたシンプルで洗練されたデザインだ。そんな彼の美意識の原点となったのは、大正・昭和期の版画家・川瀬巴水の新版画だったという。アップル最初の従業員への取材で解き明かされた、ジョブズと日本人版画家の意外な接点とは?※本稿は、元NHK記者の佐伯健太郎『スティーブ・ジョブズ1.0の真実』(晶文社)の一部を抜粋・編集したものです。

ジョブズの親友の家に
飾られていた3枚の版画

「ゴーサイン、おめでとう!」(編集部注/著者はNHK WORLDで「ジョブズ特集」のウェブ記事を提案していた)

 2020年4月、祝福のメールを見て、僕は胸をなでおろした。メールの主は、スティーブ・ジョブズの親友だったビル・フェルナンデスさん(編集部注/1977年にApple Computerの最初の従業員となる)。

 彼に連絡を取ったのは2年ぶりのことで、僕のことを覚えているか不安だっただけに、とてもありがたいメールだった。

 ジョブズと松岡春夫さん(編集部注/ジョブズが新版画を買いに通っていた銀座の画廊の店員)との20年に及ぶ付き合いをウェブ記事として書くために、ビルさんの写真と子どもの頃住んでいた家の部屋を撮った写真をメールで送ってほしいとお願いしていた。

「なんだ、これ?」

 ビルさんのメールに添付されていた写真を見て、僕は思わず目を見開いた。

 写真には、リビングで白いソファに座り、愛犬とくつろぐ母親のバンビさんが写っている。机には花が飾られ、白い大きな犬がバンビさんに寄り添っている。

 ふつうにみれば、古きよきアメリカを切り取った1枚だが、僕が驚いたのは白いソファの後ろの壁に掛かっていた3つの額縁だ。