『美少女戦士セーラームーン』を見慣れていた変身ヒロインファンに、衝撃を与えた『ふたりはプリキュア』。この第一作から数えて、シリーズはとうとう20作目に突入した。つねに「多様性」を中核キーワードに据えて進化するなかでは、男の子がプリキュアに変身する場面や、主人公が育児を手掛ける展開すらあった。同シリーズが打ち出す新しいヒーロー像とは?※本稿は、河野真太郎『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』(集英社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
「女の子だって暴れたい」
魔法ではなく拳で戦う少女
「プリキュア」シリーズは、「スーパー戦隊」シリーズ、そして「仮面ライダー」シリーズとともに、長らくいわゆる「ニチアサ」の枠で放映されてきた。つまり、テレビ朝日系列の日曜朝の子供向け番組の時間帯である。
じつのところ、多様性と「正義」の行方を論じてきた筆者にとっては、「プリキュア」シリーズこそその本道である。「プリキュア」シリーズはまさに「多様性」を意識的に追究してきた作品なのであるから。
まず、第1作『ふたりはプリキュア』からして、女児向けの変身ヒーローものとしては革命的だった。「女の子だって暴れたい」をコンセプトの1つとしたこの作品は、キュアブラックとキュアホワイトの2人を主人公とし、名前の通り黒と白を基調とする変身衣装がまずは革新的だった。
とりわけ、フェミニンなホワイトの衣装に対して、ショートパンツをはいた格闘向けのブラックの衣装は、その後はカラフルでフェミニンな衣装を基調とするようになるシリーズ全体の中でも異色である。
そして戦闘シーンにおいては、かなりの迫力のある肉弾戦が描かれた。これは、同ジャンルの先行作品である『美少女戦士セーラームーン』(基本的には拳ではなく魔法の技で戦う)と比較しても特筆すべきであった。
『ふたりはプリキュア』は、主人公2人の設定についても、キュアブラックの美墨なぎさはラクロス部のエースでボーイッシュな見た目、キュアホワイトの雪城ほのかは科学部で科学実験に没頭するなど、ジェンダー・ステレオタイプを逸脱することが明確に意識された。
つねに多様性を打ち出す
新しい「ヒーロー」像
その後のシリーズも、「多様性」がキーワードであり続けた。
「プリキュア」シリーズは毎作品においてそれぞれのモチーフが設定されているが、2018~19年の『HUGっと!プリキュア』は育児と仕事をモチーフにして、明確に現代のジェンダー分業を問いなおす作品であったし、この作品では男の子がプリキュアに変身したことで話題となった。
続く2019~20年の『スター☆トゥインクルプリキュア』では、メキシコ人と日本人の親を持つキャラクター、学校に行かないキャラクター、そして宇宙人がプリキュアとなった。