金融機関にも周知したはずなのだが、今回の調査で2021年4月以降でも14市区町村で52件、預貯金が引き出せなかったと報告された。

「引き出し依頼を行ったが、相続人または相続財産管理人以外は引き出せないと金融機関に断られた」

「本店の判断だと支店から断られた」

「厚労省の手引に記載されていない相続放棄の証明書類、相続人の同意文書などを金融機関に求められ、対応困難と判断せざるを得なかった」

 引き出しを断った金融機関に総務省がヒアリングしたところ、「預貯金は相続以外で払い出すことは本来、困難。金融機関が払い戻しに応じた責任を相続人から追及されるリスクがある」と弁明していた。

 総務省に対し、多くの金融機関は今後、手引に基づき払戻請求に応じる意向を示している。

 市区町村は遺留金を使うために相続人を探す調査をするが、地縁や血縁が薄れ、多くは難航している。そうなれば、最終的には遺留金は国庫に納めることになる。

 松本剛明総務相(当時)は2023年3月、遺留金を葬祭費として円滑に使えるよう、厚労省と法務省に対し、市区町村、金融機関へ周知するよう勧告した。

 厚労省も関係省庁と連携し、相続人の意思確認なしに、市区町村が葬祭費として預貯金を下ろせるよう法的根拠を明示し、改めて周知するという。

 死に逝く人が弔いのために残した遺留金が国庫に行ってしまうことがないよう明確なルールづくりをしてもらいたいものだ。

数千万円の現金とともに寂しく孤独死
官報から浮かぶ巨額遺留金の実情

 2022年冬、東京都豊島区内にある一戸建てに住む70代の男性が「孤独死」した。

 警察から連絡を受けた同区生活保護課は戸籍調査などを実施したが、男性は独身で子どもはおらず、親やきょうだいもすでに他界して遺体を引き取る人がいなかったので墓地埋葬法で葬った。

 この時、男性が所持していた現金は数万円で区が埋火葬費用として13万円を立て替えた。

 その後、男性の遺留金の調査をしたところ、銀行口座には数百万円の預金があり、自宅の土地や建物も男性名義で数千万円の資産価値があったため、検察官の申立てによって家庭裁判所が相続財産清算人を選任した。

「清算の費用と区が立て替えた13万円を清算すると、残りの預金と自宅の土地と建物を売却した財産はすべて国庫に入ることになります」(同課)という。

 男性の遺骨は引き取り手がなければ、無縁遺骨となり、やがて区が管理を委託する寺の無縁墓に共同埋葬されるという。