総務省の調査によれば、身寄りのない人たちが亡くなった後に残される現金や預貯金などの財産、いわゆる「遺留金」の総額が全国で20億円を超える事実が判明した。だが、その活用には行政上のハードルも存在する。本稿は、森下香枝『ルポ 無縁遺骨』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
遺留金の全国総額は約21億5000万円
使用に立ちはだかる高いハードルとは
総務省が公表した実態調査によると、身寄りのない人が亡くなったあとに残した金品「遺留金」は総額21億4955万9637円あり、全国の市区町村に埋蔵金として保管されていたことがわかった。
2018年3月末の時点では約13億円だったので、3年半の間で8億4千万円も増加していた(2021年10月末時点)。
だが、保管する市区町村はルールが定まらない遺留金の対応に苦慮し、宝の持ち腐れとなっている。
引き取る人がいない死者10万5000人のうち遺留金が残されていたケースは4万8479件、なかったケースは5万5424件だった。
亡くなった人が現金を残していれば、市区町村の裁量で葬祭費にあてることができるという。
だが、預貯金の口座にあった場合、引き出そうとすると金融機関が相続人の存在を理由に拒むケースが報告書で報告された。
「無縁遺骨」などの対策の先進地、横須賀市でその舵取りを担う福祉部福祉専門官の北見万幸さんにも苦い経験が記憶に残っている。
市内在住のひとり暮らしの男性は、がんが見つかる78歳までペンキ職人として働き、翌年、79歳で亡くなった。
身寄りがなかったので市で戸籍をたどり、相続人の調査をすると、東北地方に親族がいた。連絡したが、遺体や遺骨の引き取りは難しいと言われ、墓地埋葬法が適用され、公費で荼毘に付した。
遺品整理をしていると、火葬と無縁仏にしてほしいと書かれた遺書と銀行の預金通帳が見つかった。男性の銀行の預金口座に20数万円が残されていた。
葬祭扶助の基準額は約21万円なので、口座のお金を充てれば弁済できた。
しかし、遺留金よりそのお金を口座から引き出すため、相続財産管理人を選任する行政手続きの費用のほうが高くつくため、口座に手をつけられなかった。
北見さんは、「行政の裁量では亡くなった方が残した現金しか扱うことができず、男性の残した預金を使って思いをかなえることはできなかった。今は多くの人が銀行口座にお金を預けているので、遺留金の使用はハードルが高い」と振り返る。
引き取る人のいない死者の預貯金の扱いは法で明示されていないが、市区町村の葬祭費の負担が増加の一途をたどり、過去最高となっている。21億5000万円ある遺留金も有効に使おうと2021年3月、厚労省と金融庁など関係省庁は手引をつくり、「遺留金は死者の預貯金を現金化したものも含まれ、葬祭費に充当できる」と記した。