価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。
言葉は、それ自身がアイデアである
私の初の著書は、『言葉でアイデアをつくる。』というタイトルです。
なぜ、言葉なのでしょうか。絵では、だめでしょうか。写真では、だめでしょうか。テクノロジーやデータでもなく、言葉でアイデアをつくる、という書名に込めた思いは何でしょうか。
実は、ヤングも言葉の重要性について、次のように述べています。
「さらにもう一つ私がもう少し詳細に説明すべきだったことは言葉である。私たちは言葉がそれ自身アイデアであるということを忘れがちである。言葉は人事不省に陥っているアイデアだといってもいいと思う。言葉をマスターするとアイデアはよく息を吹きかえしてくるものである」
つまり、言葉をどう使うかによって、アイデアの発想力も精度も変わってきます。
ヤングが「言葉がそれ自身アイデアである」と言っている点もこれに当たるでしょう。それは、言葉として何を言うかだったり、どう言うかだったりを意識しよう、ということに留まりません。
言葉をどう使いアイデアを生みだし、どう構築していくか、言葉の使い方にもアイデアを盛り込むべきです。
たとえば、外部刺激として言葉を使い発想を促したり、アイデアを構築していくためのワークシートを使ったり、工夫によってアイデアはつくりやすくなっていきます。本連載では、言葉でアイデアをつくるために、私が考え実践してきたことをご紹介していきます。
言葉にすることで、
アイデアの不完全さに気づく
さらに、もう一点、私が「言葉でアイデアをつくる」ことを大切にしている理由があります。それが、「言葉にすることで、アイデアの不完全さに気づく」ということです。
アイデアの不完全さを発見できることは、強いアイデアをつくるために必要なプロセスです。
たとえば、個人の頭の中で発想していたときに「すごくいいアイデアを思いついた」と思ったのに、いざ言葉にしてみると陳腐なものに見えてしまった経験はないでしょうか。
そのときに、陳腐なアイデアだと捨ててしまわないで、「アイデアの不完全さに気づき、強くしていくチャンス」と捉えて向き合っていくプロセスこそが、言葉でアイデアをつくる上で大切なことだと考えています。
それは、個人の中でのプロセスに留まりません。チームの中でも「言葉でアイデアをつくる」とは、言葉でアイデアを共有することで、その不完全さに改めて気づきチーム全員でより強くしていくことができます。
言葉でアイデアをつくるために、言葉の使い方自体にアイデアを入れていくこと。そして、その言葉としてつくられたアイデアから、不完全さを見つけ、個人やチームで強いアイデアにするための方法を考えていく。その循環的な働きこそが「言葉でアイデアをつくる」ことの核心だと考えています。
(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。