何かを提案をした時、こんな言葉を言われたことはないだろうか?
「なんか、普通だね」「他の商品・サービスと何が違うの?」「この会社でやる意味ある?」
などなど。サービスや商品、仕組みなど、新しい何かをつくろうとするとき、誰もが一度は投げかけられる言葉だろう。
そんな悩めるビジネスパーソンにおすすめなのが、細田高広氏の著作『コンセプトの教科書』。本書には、
「教科書の名にふさわしい本!」
「何度も読み返したい」
「考え方がクリアになった」
といった読者の声がたくさん寄せられている。
この連載では、グローバル企業、注目のスタートアップ、ヒット商品、そして行列ができるお店をつくってきた世界的クリエイティブ・ディレクターの細田氏が、コンセプトメイキングの発想法や表現法などを解説する。新しいものをつくるとき、役立つヒントが必ず見つかるはずだ。
目指すべき理想を問いかける
ビジネスシーンで与えられる問いの多くは、切実な問題に向き合う現実的なものです。それ自体は間違ったことではありませんが、目先の問いにばかり気を取られてしまうと、視点を広げられなくなってしまう可能性があります。
ときには、現実の先にある「理想」を問いかけてみましょう。
ダイアローグ・イン・ザ・ダークはどのように始まったのか
1980年代、哲学の博士号を持つアンドレアス・ハイネッケはドイツのラジオ局で働いていました。
ある日、交通事故に遭って失明した元社員が自分の部下として復帰します。
「どうすれば視覚に障害がある人でもストレスなく仕事ができるか?」
と考えていたハイネッケでしたが、一緒に仕事をするうちに、自分が立てた問いがあまりに後ろ向きであることに気がつくのです。
そして現実的な目標のもっと先にある、理想を問うべきだと考えるようになりました。それは
「視覚障害者が強みを発揮できる職場環境はどのようにつくれるか?」
というものです。
次のように問いを並べれば、どちらに創造性を掻き立てられるか、一目瞭然でしょう。
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理想の問い:視覚障害者が強みを発揮できる環境は?
この問いから生まれたのが「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク」です。
照度ゼロの空間で、視覚以外の感覚で対話するというこのエンターテイメントは、暗闇の中を自由に行き来する視覚障害者のスタッフがいなければ決して成立しません。取り組みはいまや40ヵ国以上に広がり、900万人以上が体験する世界的コンテンツになりました。
10倍を考える問いにする
グーグルもまた、理想の問いが持つ力を最大限活用している企業です。
グーグルは日々の競争に勝つことよりも大きな視点から問いかけるために「10Xクエスチョン」を提唱しています。それは既存の解決策の10倍の成果をもたらす答えを求めるというものです。
「交通事故を減らすには?」という問いからは、既存の安全技術開発の延長線上にあるインパクトの低いアイデアしか出てきません。
しかし、「人的エラーによる交通事故をなくすには?」という問いには、全く違うシステムを考えない限りは答えられません。ハードルの高い「ぶっ飛んだ」問いを設定することで、先入観に囚われない発想を促そうとしているのです。
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理想の問い:人的エラーによる交通事故がなくなる世界をつくるには?
理想は目先の矛盾も超えていく
理想を問うなんて、いささか情緒的すぎるように感じられるかもしれません。しかし、複雑な現実の問題を突破する際には、目線を上げることが必要なときがあります。
かつてアマゾンが電子書籍に参入しようとしたとき、出版業界からの反発が予想されました。ビジネスの大部分を支える、紙の書籍の売り上げが犠牲になることが目に見えていたからです。ところが、キンドルは想像以上にスムーズにアメリカの出版業界に受け入れられました。そのひとつの成功要因が、コンセプトだったのです。
当時、アマゾンが繰り返し語っていたキンドルのコンセプトは
「世界中のあらゆる書籍を60秒以内に手に入るようにする」
“Every book ever printed, in print or out of print, in every language, all available within 60 seconds”
です。
このコンセプトはすべての書籍を扱おうとするアマゾンだけでなく、出版業界にとっても理想の未来を示していました。自分たちの出版物を世界の隅々に届ける。書店のない場所にまで行き渡らせることができる。そんな未来像を前にすれば、目先の小さな利益を守る発想は、説得力を得られません。
このように、理想を問うことは利害対立を乗り越える際にも有効な手段になるのです。
このほかにも、『コンセプトの教科書』では、発想法から表現法まで、コンセプトづくりを超具体的に解説しています。