『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第20話『小平恵の思春期外来』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
女子大生が空港で出産→公園に赤ちゃんを遺棄した事件の背景
今回のマンガでは、およそIQが70~84で知的障害には該当しないものの、一定の支援が必要とされる「境界知能」の少女が赤ちゃんを生み、遺棄するに至った背景をテーマにしています。
児童虐待による死亡は、毎年およそ70人前後で推移しています。その中で最も多いのは0歳児であり、特に生まれたその日に亡くなる「0日死亡」が約半数を占めるとされています。こうした背景には、「予期しない妊娠」「計画していない妊娠」や「妊婦健診を受けていない」といった問題があると指摘されています。
2019年には、就職活動中だった女子大学生が羽田空港のトイレで出産し、その後赤ちゃんを殺害して遺体を、東京都内の公園に埋めた事件がありました。彼女は1年後に逮捕されましたが、境界知能であることが明らかになりました。
裁判では、「強い殺意に基づく執拗でむごたらしい犯行」「身勝手で短絡的な動機」と指摘され、懲役5年の実刑判決が言い渡されました。しかし、境界知能の人は強い不安や混乱の中でパニック状態になり、結果としてそのように見える行動に至る可能性も考えられます。
今回のマンガでは、この事件の背景を考えるために、かつて六麦が精神科病院で勤務していた頃に外来で診察していた小平恵(仮名・16歳)という女子高校生をモデルに、フィクションとして描いています。
精神科の思春期外来には、さまざまな問題を抱えた患者が訪れます。不登校、発達障害、うつ病、摂食障害、不安症、強迫症、PTSD、統合失調症、素行症(反社会的・攻撃的・反抗的な行動を繰り返す状態)、薬物依存、自傷行為など、その内容は多岐にわたります。
著者も思春期外来に関わっていた時期がありますが、特に多かったのは10代後半の女性の抑うつ状態でした。リストカットや自殺未遂、過量服薬などがみられるケースも少なくありませんでした。リストカットをして来院した患者を次の診察時間に間に合うよう素早く縫合したり、過量服薬で救急搬送された患者を外来のベッドに寝かせ、診察の合間に胃洗浄を行ったりすることもありました。
このマンガに登場する恵は不登校を主訴として、母親とともに精神科を受診します。恵のIQは76で、境界知能とされる範囲にありました。コミュニケーションが苦手で友人関係に入ることができず、どこか垢抜けず、見た目が気持ち悪いなどといじめを受けたことをきっかけに学校へ行けなくなったのです。
しかし母親はそれを「単なる甘え」と考え、理解を示しません。このような状況に置かれた恵が、6年後、どのようにして赤ちゃんの生み、殺害してしまうという事件へとつながっていくのかを、次回以降で描いていきます。
単に身勝手で残酷な事件として片づけるのではなく、その背景にある事情についても考えていただければと思います。
なお、今回のマンガのエピソードは2023年にNHKでドキュメンタリードラマとして放送され、現在もオンデマンドで視聴することができます。関心のある方はぜひご覧ください。(参考:ドキュメンタリードラマ ケーキの切れない非行少年たち)
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







