価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。
仕事の手を止めないための工夫
アイデアを出すというときに、ひとつの仕事だけに集中できればいいですが、なかなかそうもいかないところが、ビジネスパーソンのつらいところです。
私は、いまでこそ自分で仕事の量をコントロールできるようになりましたが、20代や30代の頃には、仕事を抱えすぎて「回らない!」と日々焦っていた時期がありました。
ひとつの案件に時間をかけすぎてしまい、他に手が回らなくなってしまったり、ただ焦るばかりでココロが不安定になったり、無駄に時間が過ぎてしまったことがありました。そんなとき、将棋の「多面指し」にヒントを得たのがこの方法です。
将棋のプロがイベントなどで、子どもたち複数人を相手に将棋を指したりする姿をお祭り会場やニュースなどで目にしたことはありませんか。この将棋の「多面指し」という方法を「多面指し思考法」と勝手に呼んで実践しています。
アイデア出しにおいて「思考が止まってしまうこと」や「ぐるぐると同じようなことで時間を浪費してしまうこと」は、限られた時間の中では無駄になってしまいます。それを回避するための方法です。
物理的な盤面をつくる
方法は、大きく分けて2つあります。
ひとつは、物理的に多面指しの盤面をつくることです。広い場所を確保できるなら自分のデスクでもいいですが、私は、会議室のテーブルなど広さを確保できる場所で行います。
まず、取り組まなければならないタスクを分解して、それごとのスペースをつくります(下図)。
広いテーブルなどが使えればベストです。その場所には、そのタスクに関わる資料と、アイデアを書き込む用紙(A4のコピー用紙ないし、スペースが少ないときはハガキサイズの無地の用紙)を用意します。
同じ企業の課題に取り組む場合でも、取り組むべきことが複数にわたるときは、それぞれにスペースを用意することが大切です。
このように作業する場所が確保できたら、将棋や囲碁の多面指しの要領で、順番に取り組んでいきます。進め方のコツとしては、次の案件に進む条件を決めることです。
目的は、マルチタスクで案件を進めることなので、ひとつの案件にかかりっぱなしになることを防ぐために上限を決めます。私は、15分や20分などと制限時間を設定します。
どんなに思考がスムーズに進んだとしても、その上限時間を守るようにします。
そうすることで、細部に時間をかけすぎることなく、全体構造をつくることや、企画の骨格からつくっていくことに注力できるようになります。
見切り時間を設定する
もうひとつが、見切り時間を設定することです。思考が進まないときは、潔く見切りをつけて、次の案件に取り組むようにしましょう。
私の場合は、5分間思考が進まなくて生産性が悪いと思ったら、見切りをつけて次に進むようにしています。このように、テーブルにいま取り組むべき課題を並べて、順番に多面指しをしていきます。
このやり方のいい点は、一度考えはじめたことは、バックグラウンド(頭の片隅)でアイデアの思考が動きつづけている、という点を利用していることです。
たとえば、C社のアイデアを考えているときに、先ほど思考が停滞して見切りをつけたB社のアイデアがふと浮かんだりするのです。そんなときは、B社の案件のフィールドに戻って、アイデアを書き留めるようにします。
考えなければいけないことが盛りだくさんで回らない、というときに、ぜひ試してみてください。
まったく同じではないですが、場所によって、強制的に思考を変えていく、ということで少し近い事例をご紹介します。
ウォルト・ディズニーは、夢想家・批評家・実務家の3つの人格を持って仕事に取り組むために、3つの部屋を用意して強制的に違う思考を掘り下げていたそうです。
夢想したアイデアを、批評家の目を持って叩き、実務家が両者の意見を参考にしながらビジネス化していくといった使い方などが想像できますね。実際、ウォルト・ディズニーは、これらの部屋を行き来しながらアイデアを具体化していたそうです。
(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。