2023年、学習参考書として史上初めて年間ベストセラー第1位となった書籍『小学生がたった1日で19×19まで暗算できる本』。子どもだけでなく、高齢者まで幅広い支持を受けて、暗算ブームの火付け役にもなりました。なぜここまで読者が広がったのか、この本の魅力を担当編集のダイヤモンド社・吉田瑞希さんに聞きました。(構成:書籍オンライン編集部)
暗算ブームの火付け役!おみやげ算とは?
――書籍『小学生がたった1日で19×19まで暗算できる本』はシリーズ累計72万部超、2023年には年間ベストセラー第1位になるなど大人気です。もともとこの企画はどのように始まったのですか?
小杉先生から「『19×19までが完全に暗算できる本』はどうでしょうか?」と提案いただいたのがきっかけです。すぐに「おもしろそう!」と感じ、実際に本書で紹介する“おみやげ算”を教えてもらったところ、「こんなに簡単にできるなんてすごい!」と思いました。
おみやげ算とは、以下の方法です。
(例)16×13=
①16×13の右の「13の一の位の3」をおみやげとして、左の16に渡します。すると、16×13が、(16+3)×(13-3) =19×10(=190)になります。
②その190に、「16の一の位の6」と「おみやげの3」をかけた18をたした208が答えです。
まとめると、16×13=(16+3)×(13-3)+6×3=190+18=208です。
この2ステップで「十の位が1の2ケタの数どうしのかけ算」は暗算できるようになります。
私もこれまで知らなかった計算法なので、「みんなに知ってほしい!」と思い、本にすることに決めました。
子どもが自発的に解きたくなる本
――本書をつくるうえで、特に工夫をこらしたのはどのような点ですか?
書籍編集者(ダイヤモンド社書籍編集局第一編集部所属)
2015年新卒入社。書店営業部で中央線や東海地区の書店を担当。19年より現職。主な担当書は『「繊細さん」の幸せリスト』『すごい左利き』など。ハリネズミが好き。
学習参考書を担当するのははじめてだったので、まずは調査で書店に行きました。都内の大きな書店と、教育系の本がよく売れる書店の7店舗に行き、そこでわかったのは、学習参考書はビジネス書よりも売り場のスペースが限られていること、子どもに「楽しそう」と感じてもらうことが大切、という2点でした。
書店で売り場を見てみると、学習参考書のなかの「小学校の算数」の売り場は面陳のスペースが少なく、棚差しがメインになるようでした。そうなると、タイトルだけで「だれが、どうなれるか」が一目でわからければいけません。
それをクリアするために、提案いただいていたタイトルに「小学生がたった1日で」とつけました。読者の方には誠実であるべきだと思うので、その際に小杉先生に「1日でできるようになりますか?」と確認しました。その甲斐あって、「タイトルが盛られていて残念な思いをすることが多かったが、この本は本当に1日でできて嬉しい」と感想をもらい、嬉しかったです。
結果的に、ものすごく長いタイトルになりましたが、デザイン上でメリハリをつけることでパッと目に入る1冊になったように思います。
そして、子どもに楽しそうと思ってもらう重要性は、調査で行った書店で偶然見かけた親子の会話からヒントをもらいました。お子さんが「これほしい!」と言った参考書を、親御さんが購入を即決していて、子どもが勉強に前向きになることは親にとって嬉しいことだし、買ってあげたいと思うのだと感じました。
その経験から、本書は子どもが楽しいと思えるようなカバーを目指しました。デザイナーさんにいくつか案を出していただき、いとこの小学生たちの意見を参考にしながら決めました。もしかすると、デザインも学習参考書の定型があるのかもしれませんが、わたしはそれを知らないぶん、自由につくれたことがよかったように思います。
小学生が楽しめるように力を入れる
本書の構成は基本的に、すでに他社でベストセラー著者だった小杉先生にお任せしました。その分、私はタイトルやカバーデザインの部分、「この本にはすごいがいっぱい」という本書の魅力を伝えるページに全力を注ぎました。そうした役割分担がしっかりできていたこともプラスに働いたと感じます。
ちなみにこのページは当初、「自まんできちゃう!」「かっこいい!」などの文言はなかったのですが、児童書のベストセラーを連発している上司に「これは全部、大人目線のすごいことですよね? 子ども目線のすごいも入れるといいかもしれません」とアドバイスをいただき、それまで抱えていた違和感がパッと晴れたことを覚えています。小学生向けの本なのだから、小学生ファーストを貫かなくてはいけないな、と気づくことができました。
計算ドリルなのに「自己肯定感が上がる」理由
――お子さんだけでなく大人の読者からも「この本を読むと自己肯定感があがる!」というお声が聞こえてくるとか。読者の方からは、どのような感想が多く寄せられていますか?
お子さんを持つ親御さんからは「算数が苦手だった子どもが、楽しそうに解いている」など、自発的に取り組んでいる様子を喜んでいる感想が届きます。
意外だったのは、大人の読者の方も手に取ってくださっていることです。特にお孫さんを持つ世代の方からの声がとても多いです。「自分の頭の体操用に買って楽しかったから、今度は孫に教えたい」「新しい知識を身につけられて嬉しい」など、たくさんの感想をいただきます。小学生向けの学習参考書がここまで一気に部数を重ねたのは、こうした広がりがあったからだと考えています。
そしてその広がりの理由は、「圧倒的なスモールステップでの解説」にあるように思います。たとえば、本書はおみやげ算の前に“さくらんぼ計算”の説明からはじめているのですが、細かくステップを踏むことで、ずっと「わかる」実感を得ながら解き進めることができます。
また、最後に“おみやげ算マスター認定書”という賞状のようなものがついているのですが、そこでは「100点とって偉いね」ではなく、「最後までやり切ったあなたはすごい」というメッセージを伝えています。ずっとわかるしできる、そして最後にはやり切った自分を褒めてあげられる内容であることで、学習参考書ではあまりないであろう「自己肯定感が高まる」などの感想も集まり、どの年代の方からも支持してもらっているように感じます。
子どもも大人も「できる喜び」を大切に
――まだ手に取っていない読者の方に、オススメのページや使い方があれば教えてください。
小学生のお子さんは、本書を通して少しでも算数や計算が楽しいと思ってもらえると嬉しいです。そして大人の方には、単純に新しい知識を身につける喜びを感じていただけたらと思います。