低い内閣支持率で苦戦している岸田文雄首相だが、外交は相変わらずさえている。バイデン米大統領との首脳会談後に発表された、日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」を、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が読み解く。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
戦後日本外交史における傑作
低い内閣支持率で苦戦している岸田文雄首相ですが、失点続きの内政と違い、外交は相変わらずさえています。国賓として訪米した岸田首相は、4月10日にホワイトハウスでバイデン米大統領と首脳会談を行いました。その後に発表された日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」を、筆者は高く評価します。戦後日本外交史における傑作、と言っても大げさではありません。
この共同声明には、「価値観」「民主主義」という言葉が一度も出てきません。民主主義という共通の価値観を基盤にするよりも、互いの国益の極大化する均衡点を見つけるという地政学的要因が強まっているのです。具体的な文言としては、次のようなものがあります。
これはインド太平洋地域に、日本と米国が共存共栄できるシステムを構築していくという意思表示です。日本政府は米国の力が弱くなっている現実を冷静に認識し、日米同盟を巧みに用いつつ、実質的に日本の主権を強化する方向へかじを切っているといえます。
日米首脳会談の3日前の4月7日、米紙「ワシントン・ポスト」に秋葉剛男・国家安全保障局長の寄稿が掲載されました。タイトルは「国賓訪問の前に日本の防衛態勢が“偉大な”シフト(Aheadof state visit, an epic shift inJapan’s defense posture)」。この寄稿を読むと、「未来のためのグローバル・パートナー」の戦略的意義が分かります。