いま人類は、AI革命、パンデミック、戦争など、すさまじい変化を目の当たりにしている。現代人は難問を乗り越えて繁栄を続けられるのか、それとも解決不可能な破綻に落ち込んでしまうのか。そんな変化の激しいいま、「世界を大局的な視点でとらえる」ためにぜひ読みたい世界的ベストセラーが上陸した。17か国で続々刊行中の『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』(デイヴィッド・ベイカー著、御立英史訳)だ。「ビッグバンから現在まで」の138億年と、さらには「現在から宇宙消滅まで」に起こることを一気に紐解く、驚くべき1冊だ。本稿では本書より特別にその一節を公開したい。
「単純なもの」から「美しくすばらしいもの」へ
基本的な有機化合物から、どのようにしてDNAやRNAのような複雑な構造が生まれたのか、私たちの歴史の教科書はまだ空白のままだ。しかし、いったんそのような構造ができあがると、それを生んだ化学反応がそこでストップすることはなかった。
DNAは自己を複製し、細胞の残りの部分に指示を与えつづける。自己を複製する際、DNAは二つに分かれる。ほとんどの場合、このコピーは完璧に行われるが、まれにコピーミスや突然変異が起こり、わずかに違う命令が伝えられることがある。10億回に1回ほどの割合で、コピー中に突然変異が起こり、少し違う有機体が生まれる。
DNAが毎回完璧にコピーされ、ただの一度も失敗がなかったなら、生命は38億年前のままの姿で海底火山の縁にとどまり、進化することもなかっただろう。
つまり、突然変異が生物に歴史的な変化をもたらしたのである。(中略)
38億年前、海底火山の周辺で自己複製と進化のプロセスが始まると、その有機物の混合物は多様で奇妙な新しい形態に姿を変え、やがて地球全体を覆った。今日の地球に住むバクテリア、植物、動物、そして人間のすべてが、この38億年前の「粘土の塊」から形づくられているのである。
ダーウィンが『種の起源』の最後に書いたように、「じつに単純なものから、きわめて美しく、きわめてすばらしい生物種が際限なく発展し、なおも発展しつつあるのだ」。
「最初の生物」の衝撃
海底に出現した最初の生物は、海底火山からの熱を取り込み、周囲の化学物質を吸収して生存した原核生物である。きわめて単純な構造の、核を持たない単細胞の微細な生物だ。DNAが細胞内に浮遊しているため、DNAが損傷する危険性が高かった。原核生物には性がなかったが(!)、数分ごとに分裂して自己を複製した。数秒でクローンをつくるものもあった。
太古代の海はこのような小さな生物で満ちていたので、海底火山の周辺では「土地不足」だけでなく、化学物質も不足していた。そのため原核生物は海の表層に移動しようとし、地熱エネルギーではなく太陽エネルギーを利用できるように進化した。
34億年前になると、海面近くにいる原核生物は、水と太陽光と二酸化炭素を使った自給自足の生活をしていた。今日の植物と同じだ。地球上で最初に光合成をしたのがこれらの原核生物だ。水中の水素と空気中の炭素を食べ、太陽エネルギーでそのプロセスを促進した。二酸化炭素から炭素を吸収したあとに残った酸素は、廃棄物として捨てられた。
微生物がこの変化を遂げるのに4億年かかった。人間の寿命が80歳だとしたら、その500万倍だ。海から陸に這い上がってきた最初の「魚」が人間に姿を変えるまでに要した時間に匹敵するほどの長さである。
光合成を行う微生物の中には、大きなコロニー(生物集団)を形成したものもある。それが化石化したストロマトライト〔注:死骸と泥粒などでつくられる堆積構造の岩石〕は、大きいものは高さが1メートルを超す。西オーストラリア州のシャーク湾にあるこのコロニーの化石は、およそ30億年前に形成されたものだ。
(本稿は、デイヴィッド・ベイカー著『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』からの抜粋です)