いま人類は、AI革命、パンデミック、戦争など、すさまじい変化を目の当たりにしている。現代人は難問を乗り越えて繁栄を続けられるのか、それとも解決不可能な破綻に落ち込んでしまうのか。そんな変化の激しいいま、「世界を大局的な視点でとらえる」ためにぜひ読みたい世界的ベストセラーが上陸した。17か国で続々刊行中の『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』(デイヴィッド・ベイカー著、御立英史訳)だ。「ビッグバンから現在まで」の138億年と、さらには「現在から宇宙消滅まで」に起こることまでを一気に紐解く、驚くべき1冊だ。本稿では本書より特別にその一節を公開したい。
この世界の「本当の始まり」から「本当の終わり」まで
本書は、宇宙に存在するすべてのものを貫く歴史的変化の連続性をたどる試みである。
ビッグバンに始まり、単純な水素ガスの集積から生命が生まれ、進化し、複雑な人間社会が構成されて今日に至るまでの、138億年のストーリーを語る試みである。
歴史を知ることで、私たちはただ一度の人生ではなく、多くの人生を生きることができる。本書を読むことによって、私たちは長大な歴史を意識に植えつけることができる。だれもが「森羅万象のストーリー」の要点だけでも理解していたら―少なくとも自国の歴史の重大イベントと同程度に理解していたら―人間のアイデンティティ、哲学、未来に関する多くの混乱は解消されるだろう。
時間を一気にズームアウトして、ビッグバンから今日までの138億年を俯瞰したら、現代社会の混沌がもたらす厚いベールの向こうに、宇宙の歴史の全体とその軌跡を見ることができる。最初の原子から最初の生命へ、人間へ、そして社会やテクノロジーに至る、「宇宙の複雑さの増大」という壮大なストーリーが見えてくる。
そうすることで私たちは、細かい出来事にとらわれずに、途方もなく長い時間を旅することができる。
なぜなら、答えに求められる情報の量と詳しさは、問いの性質によって変わるからだ。(中略)
138億年前、こうしてすべてが始まった
138億年前、小さく、熱く、白い点が現れた。肉眼ではもちろんのこと、現代のもっとも強力な顕微鏡でも見ることができない小さな点だった。
そのとき、はじめて時空連続体と、その中に閉じ込められた超高温で超高密度のエネルギーが出現した。その外(そと)には何もなかった。宇宙にあるすべてのものを形づくるすべての要素がその中にあった。それらの要素はその後の数十億年間、粘土の塊が自在に形を変えるように、何度も姿を変えながら無数のものを形づくった。
歴史の絶対的な始まりは、ビッグバンから10のマイナス43乗(10)秒が経過したときである。1.0の小数点の位置を43桁、左に移動させることで表せる秒数だ。
0.0000000000000000000000000000000000000000001秒
かぎりなく微小な時間の薄片。これが測定可能な時間としては最小のまとまりだ。
これより短い時間では、どんなわずかな変化も起こらないので、物理的に意味がない。この極小の時間で、何らかの変化を示せるほど速く動くものは宇宙に存在しない。10のマイナス43乗秒というのは、光の量子が最小の距離を移動するのに要する時間である。
それより短い時間(たとえば10のマイナス50乗秒)を捉えたスナップショットは、10のマイナス43乗秒を写したものと完全に同じに見える。映画が動きはじめる前の最初の1コマのようなものだ。
宇宙は原子より、いや原子を構成する粒子の1個より小さかった。その小さな空間にすべてが押し込まれるほど高圧だったので、宇宙は想像を絶するような高温だった。
絶対温度で142000000000000000000000000000000ケルビン、すなわち142ノニリオン(10の30乗)ケルビンである(これほど高温だと摂氏でも華氏でもケルビンでも実質的な違いはない)。
そこでは物理の法則も首尾一貫した働きをしない。あまりにも高温のため、宇宙を動かす法則そのものが、いわば“溶けて”しまっているのである。まさにカオス。アリスの不思議の国で大量のLSDを服用したような世界が展開した。
(本稿は、デイヴィッド・ベイカー著『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』からの抜粋です)