戦争にならなかった理由は「準備不足」だから

 それではなぜ、双方は戦争を望まなかったのか。その理由は、お互い、(相手をせん滅するための)準備が整っていなかったから、である。

 イスラエルは現在、ハマス・ヒズボラと戦争を行っている。ここでイランという大国とも戦う状況には陥りたくない。機を見て、周辺のアラブ諸国も攻め入ってくるかもしれない。

 しかも、イスラエルはイラン攻撃について、米国の承認を得られなかった。米国はロシアや中国のこともあり、中東情勢の悪化を望まなかった。米国が支援してくれなければ、イスラエルにとって情勢はかなり不利になる。

 さらに、現在のパレスチナ(ハマス)での戦争で、イスラエルは人道的観点から国際的に非難を受けている。国際世論を考慮しても、今は戦うべき時ではないと判断したのだ。

 一方、イランにとっては、何よりも核の問題がある。相手は核保有国とされる。イランは目下、急ぎ核実験を進めている。これを完遂しないことにはイスラエルと渡り合うことは難しい。

 また、イランはイスラエルのみならず、周辺のアラブ諸国とも対立している。イスラエルとの戦争の成り行きによっては、周辺諸国がイスラエル側につくことだって考えられる。

 かくして、2国はそれぞれの事情で、準備不足なのである。今回の手打ちは、お互い勝ち切れるだけの体制が整っていなかったから、開戦しなかったというだけの話だ。