想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第8回。対談相手は、NTTドコモが提供し、爆発的に普及した「iモード」の生みの親として知られる夏野剛氏。孫正義流の「運のつかみ方・チャンスの生かし方」について語ってくれた。「運がいい人」「チャンスを逃さない人」は一体何が違うのだろうか。孫氏と夏野氏では、「チャンスの向き合い方」が大きく異なるという。(取材・構成/梅澤 聡)
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孫氏と夏野氏を育てた
“世界トップ大学”の教え
井上 夏野さんが米ペンシルベニア大学ウォートン校で学ばれたのは1993年から95年。ちょうどアメリカにおけるインターネット黎明期にあたりますね。
夏野 はい。94年は、ネットスケープコミュニケーションズとヤフーが設立された年。ネットスケープが世界初の商用Webブラウザー「Netscape Navigator」を無償公開しました。Webブラウザーとポータルサイトの登場によって、誰もが気軽にインターネットを楽しめる時代が始まったタイミングです。
そのとき、僕はウォートン校の2年生でしたけど、「インターネットはリアルビジネスをどう変えるか?」というコースが新設されて「これは絶対取らなきゃいけない」と思って履修したんです。毎週の授業の中心はディスカッションです。ATMネットワークがインターネットにつながったらどうなると思う?
証券会社のトレーディングシステムがインターネットにつながったら? 航空会社の予約システムがインターネットにつながったら、旅行代理店が要らなくなるんじゃないか? 現金が要らなくなるんじゃないか? そんな議論をしていたんですよ。その後、世界で起こったことを見ると、全部その通りになっている。感慨深いですね。
井上 そのタイミングで留学していなかったら、現在の夏野さんはいなかった……。
夏野 間違いないですね。「iモード」も誕生していなかったと思います。
井上 孫さんも「僕の人生をつくったのはUCバークレー(カリフォルニア大学バークレー校)だ」と言っています。やはりアメリカの大学教育は、ビジネスやイノベーションを学ぶうえで日本の大学とは違うと感じますか?
夏野 「公平」の概念が日本とは異なっています。日本では「全員に同じ教育を与えること」が公平と捉えられていますけど、アメリカにおける公平とは「その人にふさわしいチャンスを与えること、特に優秀な人には」を意味します。
ビジネスにおいて
なぜ運が大事なのか?
井上 夏野社長と孫社長との共通点として、「チャンスを逃さずに生かす」点が挙げられると思います。夏野さんは「運の大切さ」について、どのように感じていますか?