想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第1回。対談相手はNEXYZ.Group代表取締役社長の近藤太香巳氏。Yahoo! BBの販売代理店として、その並外れた営業力と企画力で契約件数を増やし、同事業を成功させた立役者の一人だ。経営者として2004年に当時最年少東証一部上場を果した近藤氏が仰天した孫正義氏とのエピソードを語った。初対面で受けた衝撃を「このハゲ、頭おかしい」とストレートに表現。さらに、孫氏から届いたスカウトメールの全文を実際の画面を見せながら教えてくれた。(構成/ライター・田之上 信)
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「このハゲ、頭おかしい」
近藤氏を驚かせた孫氏の一言
井上 近藤社長と孫社長の最初の出会いからまずは教えていただけますか。
近藤 Yahoo! BBプロジェクトがスタートする少し前の2001年6月ごろです。会社に突然、連絡がきたんです。孫さんが僕に会いたがっていると。僕はそれまで孫さんとはまったく面識がありませんし、会いたい理由もわからない。でも、当時すでに「世界の孫正義」ですからね、当時のソフトバンク本社があった日本橋箱崎町まで会いに行きました。
井上 孫さんが会いたがった理由は何だったんですか?
近藤 Yahoo! BBプロジェクトについてです。僕は初耳でしたが、Yahoo! BBで日本にブロードバンド変革を起こすんだと。当時は世界中がITバブルで騒いでいましたが、日本はまだISDN(ADSLより低速のデータ通信方法)の時代で、ネットの速度がむちゃくちゃ遅かったんですよね。それをYahoo! BBでADSLに変えると。
井上 なるほど。
近藤 僕は携帯電話や衛星放送用チューナー、ETCを初期費用0円の形で持てるという独自のビジネスモデルで普及させてたんですね。それを孫さんはご存知だった。Yahoo! BBの販売に関して、「近藤君、できるか?」「何件いける?」と聞かれたんですよ。
井上 何て答えたんですか。
近藤 ある程度は売れると思いましたけど、挑む相手はNTTですし、あまりにも唐突に言われたから戸惑ったんです。でも、カッコつけたかったんですよ。「すごいな、近藤君!」と言われたいと思ったんで、実際にできるかどうかは別として、「月に1万台ぐらいはできるでしょう」と答えたんです。これはすごい数なんです。絶対に孫さんは驚くだろうと。ところが、孫さんが放った言葉は「近藤君、1ケタ足らないよ」だったんです。
井上 孫社長らしいですね。
近藤 その瞬間、本気で「このハゲ、頭おかしい。何言うとんやと」(笑)。
井上 何も知らないんだと(笑)。
近藤 1ケタ足らないというと、10万件ですから。そうするとNTTの東日本と西日本を全部足したくらいのレベルなんですよ。だから、「そんなことできるんですか?」みたいな、逆に聞き返したんですよね。10万件なんていうのは僕にとっても想像できる数じゃなかったんで。
井上 おもしろいですね、孫さんはどう答えたんですか。