価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

ベテランが進化しつづけるために実践したい、たった1つのことPhoto: Adobe Stock

学習プロセスの4段階

 昔から疑問に思っていることがありました。子どもや若い世代の人たちは、スピードにこそ差はあれ、基本的にみんな成長していくけれど、ある程度ベテランになってくると、成長しつづけている人と、成長が止まっている人がいるのは、なぜか。いや、むしろ退化しているように見える人が多くいるのはなぜだろう、と。

 少し古い本ですが、ウィリアム・ハウエル他著の『感性のコミュニケーション』(大修館書店)の中にそのヒントがありました。その中で「学習のプロセス」として到達する能力のレベルを以下の4段階としています。

(1)意識していないし、できない
(2)意識しているのにできない
(3)意識してできる
(4)意識しなくてもできる

意識しなくてもできることを
意識レベルまで落とし込む

 学習プロセスの4段階は、自動車の運転に例えてみるとわかりやすいです。技術の習熟という意味では、この4段階のように進んでいくのが普通です。

 仕事においても4番目の「意識しなくてもできる」ようになったものは、精度も上がるし、ストレスなく楽にこなせるはずです。

 けれども、そこから先の成長を求めるなら、5段階目を設定する必要があります。

 ハウエルの著作には書かれていないですが「学習のプロセス」は5段階目があると思います。それは、

(5)意識しなくてもできることを意識レベルまで落とし込む

 ことです。

 これは、内部化された知(暗黙知)を、いったん外部化された知(形式知化)することで、客観視することができるようになるとともに、精度も磨き上げていくことができるという意味です。

 それは、プロスポーツのトップ選手が、己のスキルを高めつづけるプロセスにも似ているのではないでしょうか。

意識レベルに落とし込むことで
人に教えられるようになる

 ただ、ここで言いたいのは、それだけではありません。仕事において、意識レベルまで落とし込めば、人に教えられるようになります。それは、本人以外の人にとっても「再現可能」なものになるということです。

 さらに、そのスキルを単体で成り立たせることに留まらず、他のものと組み合わせたりという「応用」も可能になっていきます。

 ベテランの成長は自分自身だけではなく、教育と応用を意識することによってさらに高まっていくのではないでしょうか。

 私もアイデアについて人に教えることを通じて、自分の中で体系立っていないところが明らかになったり、未熟な部分を痛感しています。それでも、伝えようとすることで、さらなる進化につながると信じています。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。