日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。

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伝統企業の壁は思った以上に分厚い

 研究室長時代にはそれなりに成功を収め、その後、味の素で事業本部長となったアミノサイエンス事業本部でも、人事の考え方をすべて変え、大きな事業成果を出すことができた私ですが、それでも、その効果は事業本部内のみで、全社的な影響力は持てないまま入社から約二十余年が経過していました。

 一時期、社内の閉塞感に苛さいなまれ、社内での議論に疲れ果てた私は外にヒントはないかと他社との情報交換に力を入れるようになりました。

 しかし、他社との情報交換でも大きな気づきがあったわけではありません。多くの日本企業、特に伝統的な製造業では、事務系と技術系どちらが主役かの違いがあったとしても、構造自体は似たり寄ったりの人事制度でしたし、実際の運用も慣例・前例主義でした。

 また、残念なことに、議論する相手も目に情熱が感じられず、諦め感に満ちた雰囲気が漂っていました。なにかヒントがあればと思って行動しましたが、逆に、こんなことで日本企業や製造業はいいのだろうかと、より悩みが深まるばかりでした。

 そんなあるとき、私と同じ大学のラグビー部出身で当時の新日本製鉄に勤めていた後輩と、どういう人間がトップに就くべきかという議論をしました。例によって、味の素では、こうなんだけれどと、半分愚痴まじりに説明したのですが、後輩からはいきなり、こんなことを言われました。