日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書『会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。
「こうしなさい!」と身勝手に言うだけでは現場は疲弊する
キャリア面談を始めて以降、研究室員と足並みを揃えることに成功した私が次に取り組んだことは研究室の公用語を英語にして、日本語を一切禁止したことです。
その理由はグローバル時代が目の前に迫っていたことにほかなりません。いきなりの導入でしたので、本来であれば非難を浴びるものです。しかし、実際は研究室員と夢や目標を共有していたことが功を奏して、それが自分たちの成長に繋がるものであるならと、すぐに理解してくれたようです。
もちろん私から意図を説明することはありましたが、そんなことをしなくとも皆が意図を理解していたように感じます。全員が自分の成長に必要なことはなんなのかを理解することで、気がつけば変化に強い組織をつくることにも成功していたのです。これは大きな収穫でした。
当然、英語が苦手な社員もいましたが、私が大事にしていたのは英語が流暢に話せるかどうかではなく、英語でのコミュニケーションに慣れて、世界でも活躍できる人財になってもらうことです。
そのため、研究室内ではどんなにたどたどしい英語でも指摘することはしませんでしたし、世界で通用するビジネスパーソンになってもらうために、たくさんの失敗を経験してほしいと考えていました。
この経験を通して、研究室長時代に感じたことがあります。それは、どんな小さな変化でも、組織はルールを変更するだけでは変わらないということです。この英語の例の場合も、「今日から公用語を英語にする」とルールを変えただけではどうしてももじもじして話せない人が出てきます。失敗が恥ずかしいのです。どれだけ積極的に話をしようと伝えても、なかなかうまくいきません。正しい英語を正しい発音で言えないならば話さないと、口数が減ってしまうのです。