10年連続で算数オリンピック入賞者を輩出している彦根市発の知る人ぞ知る塾「りんご塾」。天才を生み出すそのユニークな教育メソッドを、塾長の田邉亨氏が初公開した書籍『10年連続、算数オリンピック入賞者を出した塾長が教える 「算数力」は小3までに育てなさい』(ダイヤモンド社刊)が、このたび発売になった。本書を抜粋しながら、家庭にも取り入れられるそのノウハウを紹介する。
先取り学習は子どもにとって遊びと同じ
「小学校低学年のうちから、先取り学習をさせましょう!」と言うと、次のような言葉をいただくことがあります。
「たしかに、頭が柔らかいうちに教えていけば吸収も早いだろうし、余裕ができるというのはわかります。でも、ちょっとかわいそうじゃないですか? 小さいうちは勉強を詰め込むのではなく、どろんこになって遊ばせておけばいいのでは?」
お考えは理解できます。
でも、算数でどんどん次の学年に行くことは、実は子どもにとっては遊びと同じなんです。「THE勉強」ではないんですよ。学校の成績に関係ないところで、自分の興味があることを追求しているだけだから、遊んでいることと変わりはないんです。限界まで行って、壁にぶち当たって、努力して、突破して、レベルが上がる。これって、ゲームと同じ。すごく知的なエンターテイメントなのです。
勉強好きな子は意外と冷遇されている
今は京都大学に通っている男の子が、昔、りんご塾に通っていたとき、こんなことを言っていました。
「他の子が、野球やサッカーで、ホームランを打ったりゴールを決めたりするとヒーロー扱いされるのに、僕が100点を取るとガリ勉と言われる。それがちょっとイヤです。僕はただ勉強が好きだから勉強しているだけなのに。だけど、ここだと算数の問題に挑戦して、解けたら上の学年の内容に進めるし、それを褒めてもらえるから嬉しいです」
勉強が好きな子って、意外と冷遇されています。だから私は、勉強を好きな子が安心安全に没頭できる場を提供するという意味も込めて、りんご塾を運営しています。
そして、りんご塾は「勉強を詰め込む」というスタイルではまったくありません。
「算数を小学校低学年のうちから詰め込んで教えるなんて、かわいそう」。そう感じる人はおそらく、学校や進学塾で習う内容を、小さいうちからどんどん強制していくイメージがあるのではないでしょうか。
例えば、中学受験で必須の「旅人算」「割合」「速さ」など、難関中学を目指す子どもたちが習う算数は、本当に難しいです。
教育セミナーで、小学校高学年の子のお母さん方とお話しする機会もありますが、多くの方が疲弊されています。「大人の私でもわからないような問題を一生懸命解いて。だけどたくさんバツをもらって。偏差値も全然上がらないし……。それなのに、毎晩テキストと向き合っている小さな背中を見ていると、涙が出てきます」
そのように感じている親御さんは、たくさんいらっしゃいます。
本人が「楽しい」と思って自分から獲得しに行くのではなく、一方的に突如与えられる先取り学習は、詰め込み作業にほかなりません。深いところでは身に付いていないことが多いですし、単なる苦行になってしまうのではないかと危惧しています。
だから、りんご塾ではそうならないように、「余裕のある低学年のうちに」「頭を使う問題」を「楽しいと思える形式で」提供しているのです。そうすれば、高学年になって学校や進学塾で思考力が問われる難しい問題が出るようになっても、「どうすれば解けるかな?」と、楽しみながら立ち向かうことができるからです。
要は、算数は楽しいと思わせたら勝ちなのです。
*本記事は、『10年連続、算数オリンピック入賞者を出した塾長が教える 「算数力」は小3までに育てなさい』(田邉亨著・ダイヤモンド社刊)から抜粋・編集したものです。