高齢になるとさまざまな不調が出やすくなる。気をつけたいのが“心のがん”と呼ばれる「うつ病」だ。若い人とのうつ病との違いは何か。発症要因や治療法は。精神科医に聞いた。AERA 2024年6月3日号より。
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「うつ病は“心のがん”なんです」
『80歳の壁』『うつの壁』『ぼけの壁』ほか多くの著書がある精神科医の和田秀樹さん(63)は、そう強く言う。
「生きていることがつらくなる。うつ病になって、一生を終えるのが、人生最大級の悲劇だと私は思います」
高齢になると、いろいろな身体的不調が出やすくなる。疲れやすい、眠れない、足腰も弱り、節々が痛む……といったものだ。やがて外に出るのもおっくうになり、家に引きこもる。これまで仕事に趣味にと活動的だった人が、引きこもり、自分が大切にしてきた対象を失えば、心理的に不安定になる。これが「老人性うつ」の最大の発症要因だ。
そしてひとたび高齢者がうつ病を発症すれば、「39度の熱を出したぐらい体がだるくなり、それが来る日も来る日も続く」
と和田さんは言う。
「体はだるいし、重い。そして自責の念にかられる。家族と同居している人であれば、家族に迷惑をかけていることを申し訳なく思い、自分を責め続けてしまう。生きていることがつらくなる。老人性うつは自殺を招きやすいので要注意です」
早期発見・治療が鍵
自殺に至らないにしても、うつ病になれば、免疫の機能も低下し、いろいろな意味で命を縮めてしまうという。
「長期的に見ても、緩やかに死へ向かう病気とも言えるでしょう」(和田さん)
一方で、高齢者のうつ病は、早期治療が有効だ。うつ病は、脳のハードとソフトの両面が故障して起きる病気だ。脳内の神経伝達物質のセロトニン不足が影響している。
「うつ病を放置して悪化してしまえば、脳の神経細胞が元に戻らず、治りにくくなります。だからこそ早期発見・早期治療が鍵。早期に治療すれば90%は寛解します」(同)