いまだ古さを感じさせない優れたデザイン
そんな経緯で浮上してきたのが、430をアップデートするというプランであった。北米輸出も当面見込めないことから、ヨーロッパや日本のコアターゲットを対象とするコンパクトな高級サルーンを開発するということに落ちついた。それがクアトロポルテIV誕生のビハインド・ストーリーだ。1988年ごろには既に最終形に近いものが完成していたのだが、クアトロポルテIVがデビューしたのは1994年のことであった。開発資金不足やフィアットの新マネージメントの判断による設計変更などで、市場投入までにかなり長い時間がかかってしまった。
マルチェッロ・ガンディーニの筆による当初の提案は前述したように1クラス上のセグメントを想定した、よりラグジュアリーで強いインパクトのあるスタイリングであった。しかしそのアイデアは、ビトゥルボ系シャーシをベースとするという制約の中で、ダウンサイジングしなくてはならなくなった。だが、さすがはガンディーニ。よい仕事をしてくれた。低いフロントノーズとハイデッキスタイルのリアエンドは当時のサルーンとして大きなインパクトがあったし、それは現在の目で見ても古さを感じさせない。リアホイールアーチ・ラインにシャマル同様、彼独特のモチーフを見ることができる。
エンジニアリング面でも、同じグループ内のフェラーリとのコラボレーションがスタートし、アッセンブリーを共用することで製品クオリティも劇的に向上した。快適性、操縦安定性を考慮して、リアには頑丈なチューブラー製サブフレームが導入され、リアのサスペンションおよび駆動系などがアップデートされた。また安全性も考慮され、マセラティとして初のエアバッグが採用された。
エンジンはギブリIIとほぼ同様のチューンによる2.8リッター V6 24バルブDOHCツインターボ最高出力285ps仕様が搭載された。ちなみに従来同様、イタリア国内マーケットに向けては高額な付加価値税を回避するため2リッターのハイチューンエンジンが採用されている。トランスミッションは6速マニュアルとZF製オートマチックが2.8リッターの海外向けに適用されたが、日本国内の正規輸入モデルは4速オートマチックのみが採用された。
続いて1996年にはV6モデルが戦略価格として比較的廉価な価格設定とされたことに対応して、アッパーモデルとしてのV8エンジン搭載モデルが追加された。シャマルに搭載されていた3.2リッター V8で336psというさらにハイスペックのエンジンを搭載したOttocilindri (オットチリンドレ=8気筒モデル)が追加された。エクステリアにおいてはホイールの意匠等、ごく小規模な変更にとどまったが、インテリアもゴージャスにアップグレードされた。多用された光沢のあるブライヤーウッドによりクアトロポルテIVのバリエーションの中で、最もきらびやかでインパクトがあった。インテリアはここまでウッドパーツが必要なのかと議論が起こるほどの派手やかさであった。オートマチックトランスミッションはBTR製の電子制御モデルへと変更になる。併売された6気筒モデルも内外装に8気筒モデルと同様の変更が加えられ、フロントフェンダーにSeicilindri(セイチリンドレ=6気筒)エンブレムが追加された。