歴代モデルで際立ってコンパクト
最近、街中で見かけることも少なくなってしまった4代目マセラティ クアトロポルテ(以下、クアトロポルテIV)は、北米輸出は途絶えていたし、当時はまだ中国マーケットも存在しなかったこともあり、日本のシェアはかなり高かった。サイズも日本のマーケットにぴったりだったことも人気の理由だった。全長4550mm、全幅1810mmは、歴代クアトロポルテの中でも際立ってコンパクトだ。そう、クアトロポルテIVはビトゥルボ系シャーシを発展させた、いわば430の後継モデルたる4ドアサルーンなのだ。
デ・トマソのマネージメントを引き継いだフィアット精鋭のマネージメントによる初めてのニューモデルということもあり、かなり力の入った仕上がりとなっていた。従来のビトゥルボ・シリーズとはほとんど別物と言っても過言ではない充実した内容を持っていた。
1979年にデビューしたジウジアーロの筆による3代目クアトロポルテは当時としてかなり大柄なボディを持ち、どちらかというとショーファードリブンカーとしての性格が強かった。ビトゥルボ系のデビューによって大きくダウンサイジングしたマセラティのラインアップの中では異質な存在として1990年初頭まで、ロイヤルとモデル名を変えながらもカタログに載った。
1981年にデビューしたビトゥルボ・シリーズの中のビトゥルボ425、430は、クアトロポルテIIIのデザインコンセプトを引き継いだものでもあり、実用性の高い4ドアモデルとして販売の中心であった。しかしヨーロッパマーケットに向けたコンパクトなサルーンとして開発されたビトゥルボ系モデルは、北米顧客をターゲットとするにはボディサイズが少し小さすぎた。そこで、当時マセラティのオーナーであったアレッサンドロ・デ・トマソは、北米向けにビトゥルボのワイドボディ版の開発を進めていた。2ドアクーペの228がその1台だ。全幅を1865mmまでストレッチし、さらにラグジュアリーなテイストをまとった228に続いて彼は228の4ドアバージョン、加えてさらにビッグサイズなV8エンジン搭載モデルの開発も進めていた。本来ならクアトロポルテIIIの後継はそんなモデルとなるはずであった。
ところが残念なことに、ビトゥルボは北米で多くのリコールやアフターサービスのトラブルから販売量が激減し、1980年代後半には北米輸出が中断するという深刻な事態となってしまった。さらにマセラティの株式の多くを引き受けていたクライスラーのボスであるリー・アイアコッカとアレッサンドロ・デ・トマソの関係も悪化したことで、資金調達に暗雲が立ち込めていた。残念ながらこのワイドボディ化のプロジェクトも消滅してしまったのだ。