子どもの頃に「おとなしい」と言われて嫌な思いをした方は多いのではないでしょうか。言っているほうは悪気はなくても、「おとなしい」という言葉にはどこか否定的な響きがあります。「内向的」という意味合いが込められている場合が多いからです。「外向的」な性格で悩んでいる人には会ったことがありませんが、「内向的」であることはよくないことと世間では受け止められてきました。しかし「内向的」な性格にも長所はたくさんあるのです。世界の大富豪イーロン・マスク、「ハリー・ポッター」シリーズの生みの親JK・ローリング、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズなど、世界の偉人とも言われる多くの成功者は、子どもの頃に内向的な性格でした。一人で深く思考を重ねるのが好きでした。だからいじめの対象になることも少なくありませんでした。しかし彼らは、ある時点で自分を成長させ、自分の良さを保ったまま、世に出ることができたのです。本連載では、最新の脳科学研究から明らかになった、「おとなしさの真実」とさまざまな「性格をリセットして成長させる方法」をお伝えします(本記事は『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』西剛志(ダイヤモンド社)より抜粋したものです)。
「パブロフの犬」には続きがあった!
ここで朗報があります。
「恐怖学習」と「快感学習」の仕組みをうまく利用して、性格をリセットできることがわかってきたのです。
「パブロフの犬」という有名な現象があります。
目の前の犬にベルを鳴らした後にえさを与えると、ベルの音が鳴るだけで、犬はよだれを垂らすようになるという現象です。
これはまさに脳が新しいパターンを学習して、「ベルを鳴らす=食べたい」というパターンができた現象です。よく条件反射とも言われますが、後天的に特定のパターンができるのは性格形成にも似ています。
ここまでは、多くの人が知っている話です。ところが、この実験には続きがありました。
研究者のパブロフは、もう一つの実験を行いました。それは、先ほどのよだれが出ることを学習した犬に、今度は「ベルを鳴らしても、えさを与えない」という新しい体験を何度もさせたのです。
すると、こんなことが起こりました。
「犬はベルを鳴らしても、唾液を出さなくなってしまった」のです。
つまり、新しい体験を通して、一度学習したパターン(性格)をリセットできたことを意味しています。
これを専門用語で「消去学習」といいます。快感学習と恐怖学習を超える第3の学習と言われています。
この消去学習を使うと、過去の体験が原因となった苦手意識や性格傾向などもリセットできます。
たとえば、「初対面の人に会うのが苦手」という恐怖学習をした人がいたとします。
そんな人が、あるとき、勇気を出して、飲み会に参加してみました。初対面の人と話が思いのほか盛り上がり、とても充実した時間を過ごしました。正直楽しい! と思えた素晴らしい体験になりました。すると、脳は快感を学習して、脳の報酬系(腹側皮蓋野と側坐核)だけでなく「腹内側前頭前野」が活発化します。
この「腹内側前頭前野」は、マイナスな感情を生み出す「扁桃体」にブレーキをかける役割を担っています。恐怖・不安・悲しみなどのマイナス感情が大きな炎のようになっているとしたら、この炎を消火するのが「腹内側前頭前野」です。
その結果、今起きていることを冷静にとらえられるようになり、快感学習をしやすくなります。「うまくいった」という快感が海馬から長期記憶に移行して、恐怖学習がリセットされ、「痛みの記憶」が「快感」の記憶に変換されます。これが消去学習の正体です。
※本記事は『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』西剛志(ダイヤモンド社)より抜粋したものです。