子どもの頃に「おとなしい」と言われて嫌な思いをした方は多いのではないでしょうか。言っているほうは悪気はなくても、「おとなしい」という言葉にはどこか否定的な響きがあります。「内向的」という意味合いが込められている場合が多いからです。「外向的」な性格で悩んでいる人には会ったことがありませんが、「内向的」であることはよくないことと世間では受け止められてきました。しかし「内向的」な性格にも長所はたくさんあるのです。世界の大富豪イーロン・マスク、「ハリー・ポッター」シリーズの生みの親JK・ローリング、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズなど、世界の偉人とも言われる多くの成功者は、子どもの頃に内向的な性格でした。一人で深く思考を重ねるのが好きでした。だからいじめの対象になることも少なくありませんでした。しかし彼らは、ある時点で自分を成長させ、自分の良さを保ったまま、世に出ることができたのです。本連載では、最新の脳科学研究から明らかになった、「おとなしさの真実」とさまざまな「性格をリセットして成長させる方法」をお伝えします。

【脳科学の新常識】なぜあなたは「マイナス思考」になってしまうのか?

マイナス思考の本当の原因

「恐怖学習」をしているとき、脳の中では、何が起きているのでしょうか。

 不都合なこと、いやなこと、ひどいことを言われた──そういうことが起こると、脳にある「扁桃体」という場所が発火します。扁桃体は、別名「情動の中枢」とも呼ばれ、不安・恐怖・悲しみ・怒り・イライラなど、マイナスの感情を司る大切な部分です。

 この扁桃体からのイヤな気持ちが大きいほど、その刺激が海馬に伝わり、長期記憶に保存されます。何度もイヤな気持ちを感じることでも海馬が活性化するため、より長期記憶へと移行していきます。

 たとえば大勢の人の前で、スピーチをしたとします。がんばって準備したのに失敗して恥ずかしい思いをしました。笑われたり、バカにされたりする。そんな経験があると、「大勢の人の前で話す=怖い!」と脳は学習して、「大勢の前で話すのが怖い」=「自分の性格」というパターンができあがります。

 すると、人の前に立つだけで緊張するようになったり、不安や恥ずかしさを感じたり……そういったことが自分の一部になっていくのです。

 スポーツ用語で「イップス」と言われるものがありますが、これも恐怖学習の一種です。テニスの試合中、大事な場面でサーブを失敗した。そのときの恐怖心や緊張で、大事な場面でラケットを振れなくなったりする選手は多くいます。

 誰しもそれぞれ、何らかの苦手意識を持っています。

 たとえば、仕事でうまくいっても、恋愛がうまくいかない。特定の作業や教科だけに苦手意識がある。あるタイプの人が苦手だったり、特定のシチュエーションや場所だけがなぜか苦手ということもあるかもしれません。どんな人でも、うまくいく分野とうまくいかない分野がありますが、ほぼ確実なのは、うまくいかない分野ほど、苦手意識が多いということです。

 もちろん、人によっては、生まれつき苦手なものもありますが、私がこれまで2万人以上の人を見てきた限りだと、こうした「苦手意識」の約9割以上は、後天的な脳の恐怖学習から生まれたものだったことがわかっています。

※本記事は『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』西剛志(ダイヤモンド社)より抜粋したものです。