三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから紐解く連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第96回は「もうひとつの日経平均株価」について解説する。
レンジ相場は退屈だけど
藤田家の御曹司・慎司とのFX(外為証拠金取引)勝負の最終局面で、レンジ相場に業を煮やした主人公・財前孝史はレバレッジ200倍で手持ち資金全額を投じる賭けに出る。大博打は奏功し、投資部存続を賭けた戦いは勝利に一歩近づく。
レンジ相場は退屈に感じるものだ。株価にしても、為替にしても、方向感が出ないのはモヤモヤする。長年、マーケット担当の記者だったので、ネタに困る憂鬱な日々、という印象がぬぐえない。
だが、一歩引いて見ると、値動きが一定の範囲内で収まっているのは、市場とファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が安定していて、プライシングもそこそこ適切な証でもある。
円相場を振り返れば、それはありがたい話だと気づく。10年近く1ドル110円前後のレンジ相場が続いた後、150~160円まで一気に円安が進んだおかげで、実体経済やマネーの流れにいろいろな波乱や歪みが起きている。
長期投資の視点で見ると、レンジ相場はあまりありがたいものではない。資産価格が右肩上がりになってくれないと、資金を長期で寝かせる甲斐がない。
「もうひとつの日経平均株価」を知っていますか?
ただ注意が必要なのは、株価指数などのチャートで見て長期のレンジ相場が続いているからといって、投資の果実が得られないわけではないことだ。日経平均株価が1989年12月末に付けた3万8915円の高値を抜いたのが今年の2月22日。
30年以上もの間、壮大なレンジから抜け出せなかったとも言えるが、この間、投資のリターンが「行って来い」だったわけではない。実は「もうひとつの日経平均株価」はかなり上昇していたのだ。
配当を考慮した「日経平均トータルリターン・インデックス」は1989年末から今年2月までに6割程度上昇している。この指数は、日経平均を構成する225銘柄を保有していたら受け取っていたはずの配当金を、さらに日経平均に再投資していた場合の投資成果を試算したものだ。
こちらの方が本家の日経平均より投資のリターンの実態に近い。指数は配当にかかる約2割の税金を考慮していないので、その分を割り引いたとしても、レンジ相場の間にも株式投資からちゃんとリターンが得られていた。
ここから分かるのは、長期で見た配当のインパクトと、再投資の重要性だろう。再投資で元本を膨らませ続ければ、いわゆる複利効果が得られる。定期分配型ファンドが長期の資産形成に向かないのは、再投資の複利効果を損なうからだ。
賃料収入が主な収益源のREIT(不動産投資信託)のような商品の場合、その重要性は一層大きくなる。東証REIT指数の分配金利回りは4%前後が居所だ。指数が横ばいをキープ、つまりレンジ相場にとどまっていれば、投資のリターンとしてはプラスが積み重なっていく。
私のYouTubeチャンネル「高井宏章のおカネの教室」では、日経平均とトータルリターン・インデックス、そしてもうひとつ別の「日経平均」を比較して、日本株の最高値更新の意味を解説している。関心がある方はぜひそちらもご覧いただきたい。