インドのナレンドラ・モディ首相Photo:The Times of India via AFP

インドの総選挙は与党連合が過半数を確保し、モディ政権は3期目に入った。しかし、与党は獲得議席を大きく減少させ、モディ首相の求心力の低下も懸念される。それはインド経済に残るさまざまな課題解決を遠のかせる可能性があり、経済の成長ストーリーへの疑念を生じさせる。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)

モディ首相政権維持も
与党連合は惨敗

 インドでは4月19日から計7回に分けて連邦議会下院(ローク・サバー)総選挙が実施され、6月1日に最終回が終了するとともに、4日に一斉開票が行われた。

 今回の総選挙は10年にわたるモディ政権による政権運営、および最大与党BJP(インド人民党)を中心とする与党連合(NDA〈国民民主同盟〉)に対する審判の意味合いがあった。

 前回総選挙では、野党共闘が失敗したことで与党の地滑り的な勝利をもたらすなど与党を実質的に利する結果を招いたため、今回は最大野党の国民会議派をはじめとする政党がINDIA(インド全国発展包摂連合)を形成して、与野党が正面から激突する形で選挙戦が展開された。

 これは、総選挙では議会下院の定数545議席のうち543議席を、少数政党に不利な単純小選挙区による直接投票で選出する選挙制度が影響している。

 今回の総選挙では野党共闘が実現したことで、与党BJPやモディ政権は危機感を強めた。

 直前にはBJPの支持母体であるRSS(民族義勇団)に配慮する形でナショナリズムの高揚に訴えるほか、野党連合の有力指導者のひとりであるデリー首都圏首相のケジリワル氏が汚職容疑を理由に突然逮捕されるといった締め付けの動きを強めるなど、総選挙での勝利に向けて『なんでもあり』の姿勢をみせてきた。

 選挙戦を通じてモディ首相は今回の総選挙においてBJP単独で370議席、NDA全体では400議席を確保し議席を積み増す意向を示した。一連のなりふり構わぬ姿勢も奏功する形で事前の世論調査ではBJPの支持率が最終盤にかけて上昇し、前回総選挙から議席を一定程度積み増すとの見通しが示されてきた。

 なお、今年の暑季(4~6月)は例年を上回る熱波が発生し、選挙期間中も死者が発生するほどの酷暑に直面して投票行動に少なからず悪影響を与えることが懸念された。

 しかし、投票率は65.79%と前回総選挙(67.40%)からマイナス1.61パーセントポイントとわずかな低下にとどまるなど、酷暑の影響は限定的であったとみられる。

 よって、総選挙終了直後の出口調査ではBJPを中心とする与党連合のNDAが前回同様に地滑り的な勝利を実現するとの見方が強まった。ただ、同国の出口調査を巡ってはその精度に度々疑義が示されることが少なくなかった。結局、蓋を開けると出口調査とはまったく異なる結果がもたらされた。

 選挙管理委員会の集計ではBJPの得票率は36.56%と前回総選挙からマイナス0.80パーセントポイントとわずかな低下にとどまるも、その獲得議席数は240(改選前比63議席減)と大幅に議席を減らして単独過半数(273議席)をも下回り、選挙としては『惨敗』となった。

 与党の惨敗が政治情勢だけでなく経済の先行きにどのような影響を与えるのか次ページ以降、検証していく。