ウクライナ軍事侵攻で
インドがロシアを支援した理由
11月8日、インドのジャイシャンカル外相がロシアのラブロフ外相とモスクワで会談して、ロシアが停戦交渉を再開するように促した。9月にはモディ首相がプーチン大統領との会談で「いまは戦争の時ではない」と述べている。表向きの理由はウクライナ戦争が「グローバルサウス(非先進国)」の経済にかなりの悪影響を与えていることであるが、その裏にはインドは当初のロシア寄りの立場から、少しずつ批判的な立場にシフトしてきていることは見逃せない。
ウクライナ軍事侵攻をしたロシアに対して西側各国が経済制裁に入る中、ロシア制裁に消極的だったインドに失望を隠さない国は少なくなかった。
インドが積極的にロシアを擁護したわけではないが、形式的に中立の立場を貫いたことで、ロシア経済制裁は中国とインドという2つの大国がバッファになり、実効性が大きく後退した。当初言われていたような「経済制裁と金融制裁でロシア経済をとことん追いつめる」といったことは実際できなかった。
そのインドについて、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官(当時)は「後に、このことが歴史書に書かれるとき、あなた方がどんな立場でありたいかを考えてもらいたい(Think about where you want to stand when history books are written at this moment in time.)」と、日米豪印の安全保障協定である「クアッド(Quad)」で同盟関係でありながら、アメリカに歩調を合わせなかったことにあからさまな不快感を示した。
ただし、インドの立場に立って考えると、このときの態度も理解はできる。というのは、インドは長年、ロシアに安全保障を頼っており、現在も防衛装備品で最も大きな割合を占めるのがロシア製だからである。以前に比べればロシア製はかなり減っているが、依存状態を脱したとまではいえないだろう。
また、エネルギーに関しても、もうすぐ世界一の人口を有することになるインドにとって、ロシアのガスは不可欠に近いものだ。モディ政権にとって、国民生活を守ることが第一であれば、ウクライナ支援という選択肢を取りにくいのも事実だ。単純に安全保障上の問題ではなく、エネルギー安全保障を含めた国民生活においてもロシアとの連携は欠かせないのである。
忘れていけないのは、インドはもともと親ロ国であり、アメリカに対しては必ずしも良好な関係を保ってきたわけではないことだ。むしろ、インド人エリートには以前から根強い反米感情がある。中国との領土問題を抱えているインドで反中感情が強まることはあっても、直接的な脅威ではないだけに反ロ感情が高まることは考えにくい。むしろ国内で反中感情が高まるごとに、インド国民は親ロ的になりやすいとすらいえる。