いつも雑用を押し付けられる、嫌な仕事でも「NO」と言えない……。職場の空気を読み、他人の機嫌を損なわないように振る舞うくせがついている。他人にコントロールされてばかりの人が、これ以上消耗しないためには、いったいどうすればいいのだろう。
42歳でパーキンソン病におかされた精神科医のエッセイが、韓国でロングセラーになっている。『もし私が人生をやり直せたら』という本だ。「自分をもっと褒めてあげようと思った」「人生に疲れ、温かいアドバイスが欲しいときに読みたい」「限られた時間を、もっと大切にしたい」と共感・絶賛の声が相次いでいるそうだ。
男女問わず、多くの人から共感・絶賛を集める著者の考え方とは、いったいどのようなものなのか? 本書から、エッセンスをピックアップして紹介する本連載。今回のテーマは、「他人にコントロールされなくなる魔法の言葉」だ。(文/川代紗生、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

もし私が人生をやり直せたらPhoto: Adobe Stock

「いつも雑用を押し付けられる人」が“断れない”根本的な原因は?

 だめだ、「断る」のは、私にはハードルが高すぎる。最近になって、いよいよ諦めがつくようになってきた。

「これお願いしていい?」と仕事を頼まれると、断るどころか、すぐに「わかりました」と言ってしまう。

 ときには、頼まれてもいないのに、忙しそうな人や困っていそうな人がいると「私がやっておきましょうか?」と手を挙げてしまう。

 別に、その仕事をやりたいわけではない。そもそも、本来は別の人がやるべき仕事でも、「誰かやってくれないかな」という気まずい空気が漂う職場に居続けるのが耐えられないのである。

 しかし、このような他人に振り回されてばかりの働き方では、いつか精神的にまいってしまう。そう思い、「うまく断る方法」を調べ、試してみようとはした。

 けれど、できないのだ。いくら「関係を壊さずに断るフレーズ」を暗記していても、いざ、「この仕事やっておいて」と、自分より上の立場の人に頼まれると、その「断りフレーズ」を言えなくなってしまう。

 だいいち、いつも率先して雑用をやっていた人間が、いきなり断ってきたら、上司からの評価もガタ落ちだ。「よく断る人」が断るのと、「一度も断ったことがない人」が断るのでは、ハードルが全然違うのである。

 というわけで、「まったく断れない人」から、少しずつ「断れる人」に近づくためには、どうすればいいのだろうか。

人の「やる気」がなくなる1つの条件

 本書によると、そもそも、他人から命令されたり、コントロールされたりするとやる気が損なわれるのには、理由があるという。

人間は、自分の人生の主導権を握りたい生き物だからです。命令されることは、その主導権を他人に奪われるようなものです。だから人は、命令されたりコントロールされたりすることから逃れようとするのです。(P.48-49)

 つまり、先輩や上司、取引先など、力のある者に命令され、断れない状況に息苦しさを感じてしまう根本的な原因は「主導権を他者に握らせている」感覚があるからだ、というのだ。

事実、自律性は人間の基本的心理欲求のひとつです。人間は、自分の領域を守るため、他人の干渉や侵入を阻止して自らの人生のオーナーであろうとします。人間が生まれて最初にする意思表示もまさに、「嫌だ」と「しない」です。(P.49)

「他人にコントロールされなくなる」魔法の言葉

「いつも周りの人の言いなりになってしまう」「他人に振り回されてばかり」「いやな仕事を断ることができない」ということは、こういった仕事のストレスも、「主導権を握れていない」ことから発する部分が大きいのではないか。

「いやなことにNOと言う」「断る」ことへのハードルが高すぎるのならば、せめて、自分自身に「主導権を握っている感覚」さえあれば、仕事のストレスもかなり減るのではないか? 

 そんな仮説を組み立てつつ、さらにページをめくっていくと、はっとさせられる言葉が見つかった。

彼女のように、他人に振り回されて悩んでいる人に、私はこう伝えています。
「コントロールの決定権を自分主体で持ちなさい」と。
例えば、「やらされている」のではなく、自分がやったほうがいいから「やってあげている」のだと考えなさいという意味です。(P.52)

「やらされている」ではなく、「やってあげる」という言葉。

 ほんのちょっとの違いだが、言葉の言い回しを変えるだけでも、仕事への向き合い方はずいぶん変わる。

 私も、やりたくない仕事を頼まれたものの、断りきれなかったとき──心の中で、「また、面倒な仕事を押し付けられた」ともやもやした気持ちが湧き出てきてしまったら、「あの人は今、これをやる余裕がないから、私がやってあげよう」と、少しだけ、愚痴の吐き出し方を変えてみることにした。

「断れない」人間が「断れる」人間になるためのファーストステップ

 この作戦のいいところは、「やってあげる」という言葉を使うことで、精神的な余裕が生まれる、という点だ。

 自分よりも立場が上の人に命令されると、どうしても、相手の期待に応えられなかったらどうしよう、嫌われたら仕事に差し支えるのではないか、といったプレッシャーが生じ、ますます相手に「従わなければ」という意識が強くなる。

 その点、「私がやってあげよう」と、言葉だけでも変えれば、自分は、自分の意思で仕事を選ぶことができるのだ、という事実を思い出すことができる。

人間関係も同じです。嫌いな相手に無理してでも合わせなければならない時は、誰しも卑屈でみじめに感じるものです。そんな時も、「相手が望むから笑うのではなく、この状況をやり過ごすために笑ってやってるんだ」と考えてみてください。どんな状況でも、軸を自分自身に置くようにするのです。(P.53)

 著者の教えから得た学びを取り入れ、私が考えた「断れない」人間が「断れる」人間になるためのファーストステップは、こうだ。

・「やらされた」という言葉を、「やってあげる」という言葉に置き換える
・コントロールの決定権を他人に持たせず、自分が持つ、という感覚に慣れる
・理不尽に仕事を押し付けられているな、と感じたときは、自分の意思で断る

 まずは、これくらいの気持ちの整理を一度してからでないと、メンタルが弱い人間にとっては、「仕事を断る」というのはハードルが高いように感じた。

 あなたにも、本当はこうしたいのに、周りの空気を読みすぎてしまって言えない。そんな経験があるのではないだろうか。

 そんな人には著者のアドバイスが効果的かもしれない。難病を患いながらも、それでもフラットに物事をとらえ、自然体で生きる彼女の言葉には、すっと肩の荷を下ろしてくれる力があるのだ。