「優しすぎて断ることができない人でもラクにNOを伝える方法があります」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)

優しすぎて「断ることができない人」がラクに“NO”を伝える方法・ベスト1Photo: Adobe Stock

八方美人は損をする?

 みなさんは、こんな経験はありませんか?

・余裕がないのに頼みごとをされると「ついOK」してしまう
・友人や家族のために自分の時間を「犠牲」にしてしまう
・常に相手の「機嫌」を気にしてしまう
・断ることに「罪悪感」を感じる

 このような「お人好し」や「八方美人」のせいで、自分のことを後回しにし、気づけば損をしている人も多いと思います。
「優しさ」という感情に振り回され、知らず知らずのうちに疲弊してしまうこともあるでしょう。

 実はこの「優しさ」は、「断ることへの苦手意識」から生じている可能性があります。

「NO」と言えない心理とは?

「断る」ことが苦手な人は、最初から断る選択肢が頭になく、頼まれるとすべて受け入れてしまいます。

 自分に余裕がなくても、誰かに手伝ってほしいと頼まれると、つい“いい顔”をして引き受けてしまいます。
 断った「後」が怖く、理由をつけて断れない状況を繰り返し、結局は「断らないクセ」がついてしまうかもしれません。
 そうした人は、人間関係に不慣れで、断ることに慣れていない傾向があります。

 余裕のある人は、自分の時間に合わせて生活でき、「ごめんね、今は余裕がない」と言えるものの、断ることに慣れていない人は「断るとどうなるかわからない」「断ったら人間関係が壊れるのでは」と過剰に心配し、結局は断らないほうがラクだと考えてしまいます。
 そして、気づけば過剰な負担を抱え、何もできなくなってしまいます。この結果、限界を迎えた際に人間関係が悪化し、「人間関係リセット症候群」に陥ることもあります。

 他人を助け、優しくすることは社交術の一部ですが、やり過ぎは自分を守れず、結果的に人間関係を悪化させてしまいます。

「NO」と言えないデメリットは?

「睡眠時間を削れば、友人の期待に応えられる」
「友人のために自分の時間を使うのは当然」

 といった考えを持つ人は、つい相手に合わせてしまいます。

 断ることによる関係の悪化を心配するのは当然ですが、断らないことのデメリットも見過ごされがちです。

 頼まれたらOKしてしまう人は、信頼されやすいですが、「都合のいいヤツ」として悪意ある人に利用されることもあります。自分の負担を減らすために他人に負担を押し付ける人がいますが、そうした人たちはあなたの限界を考慮せず、無理を強いることも。結果的に、怒られる、嫌われるよりはマシと考え、続けてしまうと自分を苦しめることになります。

 その状況が続けば、他人の要求に応えることに集中し、自分のことはおろそかになります。結果として、自分のことは後回しになり、「他人のための人生」になってしまいます。この状況が続くと、メンタルが崩れるリスクが高まります。

 いくら忍耐強い人でも、限界が来れば、メンタル面だけでなく、体調面にも影響が出ます。我慢し続けることで、頭痛、不眠、胃痛、ストレスによる病気のリスクが増加することもあります。
 断って相手の機嫌を損ねることも怖いですが、「断らないことのデメリット」もまた非常に深刻です

「NO」と言えるようになるためには?

 ここまでの話を聞いて、「自分も当てはまるかも」と不安に感じる方もいるでしょう。では、どうすれば断りたいときに「NO」と言えるようになるのでしょうか?
 そんなときは、自分を客観的に見るといいでしょう

 断れない人は視野が狭まりがちですが、自分と相手の距離感を振り返ることで、視野を広げることができます

 断ることには勇気が必要ですが、早めに関係を断つほうがいい場合もあります。一度くらい断ったくらいで関係が崩れるなら、それは元々、健全ではなかったと考えることもできます。言いたいことをハッキリ言えるようになるには時間がかかりますが、断ることにも慣れるものです。自分の中で納得のいくラインを決め、それを超えた要求には断る、という自分ルールを作るのも効果的です。

 さらに、相手と自分の立場を客観的に考えることも重要です。これにより、無理な要求があったときには、それを断ることができるようになります。上司からの業務外の要求や、友人からの過度な要求など、適切に対処することが必要です。

 性格的に断れない人は、頼み事や誘われることを想定して、あらかじめ余裕を持って生活することも大切です。金銭的な余裕がある人は、客や働き方を選べるので、自由な働き方ができます。時間に余裕がある人は、頼み事にも対応しやすくなります。

 頼み事を聞いてあげることは信頼関係の構築にもつながります。周囲には、あなたの助けに感謝する人も多いでしょう。その信頼の厚さから、何かあったときにはあなたのために駆けつけてくれる人もいるかもしれません。また、断らずに人と関わり続けることは、交友関係を広げることにもつながります。仕事終わりや急な誘いにも対応することで、出会いが増えて、より人生が豊かになるかもしれません。

 日本という国では、「NOと言えない人」ではなく、「NOという人を絶対に許さない人」も多いと感じられます。

 そんな社会で生きていくためには、適度に「NO」ということで、許さない人から距離をとり、生きやすくするような工夫が必要になるのかもしれません。

 あなたはいやなことでも「断れない人」なのか?
 それとも、いやなことでもついつい引き受けちゃう「断らない人」なのか?
 優しさなのか、恐怖心からなのか?

 一度振り返ってみて、メタ的に見てみると「NO」と言えるようなきっかけが生まれるかもしれません。

(本稿は、頭んなか「メンヘラなとき」があります。の著者・精神科医いっちー氏が新しく書き下ろしたものです)

精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。