派閥は悪なのか。政治資金はなぜ透明化できないのか。「派閥とカネ」に関する素朴な疑問を当事者らにぶつけた。テレビや新聞の報道からは見えてこない問題の真相に迫る。連載の第4回は、元東京都知事の舛添要一氏。自民党内の派閥が相次いで解散を表明したことを「愚の骨頂」と批判。派閥がある政治の利点とは。(構成/ライター 田之上 信)
――自民党の裏金事件をめぐる派閥解散をどう見ていらっしゃいますか。
愚の骨頂ですよ。つまりああいう小手先のことを政治家がやっちゃダメなんです。結局、どうすればマスコミに叩かれなくてすむか、世論に批判されずにすむかだけを考えているわけです。
裏金はけしからん、透明にしないといけない。それは正論だから、誰も反対できないでしょ。だけど、政治にはカネがかかるし、透明性とかきれいごとだけではすまないこともあるんです。いっぺん国会議員になってやってみなさいって、私は言いたいわけです。
『自民党と派閥』を読むと、派閥の効用、派閥というのはすごいなということがよくわかりますよ。もうカネがバンバン飛び交う世界で、いまの時代はとても受け入れられないでしょうが、政治というものを理想論だけではなく、そうした現実を取材して書かれています。
――派閥の効用とは具体的にどのようなものですか。
かつて大平正芳が派閥について「切磋琢磨」ということを言っていました。派閥というのは切磋琢磨するものだと。一方で、野党は何もしてないじゃないかと、当時の社会党ですね。だから弱いんだと。
実際、三角大福中の時代(*佐藤栄作が退陣した1972年以降、派閥領袖として政界を動かした5人、三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘を指す)は、政策について喧嘩のような議論していたわけです。それによって非常に政策が磨かれて、いい政策やるから、政権を維持し続けることができるんだと。だからこの切磋琢磨して日々、仲間同士で戦っていることが、自民党の強みになっているというわけなんですね。
当時は中選挙区制だったので、現在の小選挙区制と比較にならないくらい派閥の力が大きかったんです。
――小選挙区制になって派閥も変化したんでしょうか。
派閥の唯一の問題がカネだったので、中選挙区制から小選挙区制に変えればカネの問題は片付くはずだったんですが、ところが小選挙区制になったらそれはそれで別の新たな問題が発生した。首相官邸主導になりすぎてしまったことです。
特に安倍(晋三)さんの長期政権の時代は、首相官邸が公認候補を決めちゃうわけですよ。党ではなく。だから安倍さんや菅(義偉)さんにゴマをする政治家が増えた。
悪いことにそれが役人にまで広がってしまった。結局、首相官邸にゴマする、忖度する役人がいっぱい出てきて、(その犠牲になる形で)財務省の職員が自殺に追い込まれたりするような問題が起きました。
何でもかんでも右寄りの安倍さんの言う通りにしないと出世できないということになって、安倍派に入るだけではなく、他の派閥の人間までもハト派的なことを言わず、全部安倍さんに迎合するという、独裁国家みたいになってしまった。
――中選挙区制に戻せばいいのでしょうか。
それは現実的に難しいと思うので、本当は政権交代が理想です。ところが自民党がここまで落ちても、立憲民主党と国民民主党はバラバラなことをやっていて、何をしているんだという感じです。自民党の疑似政権交代ではなく、本当の政権交代が起きれば、政治にもっと活力が生まれますよ。
そのためには立憲民主党を含め野党がしっかりすればいいだけの話で、自民党以上に魅力のある政策を打ち出せばいい。いまがチャンスなんです。国民の多くが自民党に嫌気がさしてるわけですから。
実際、私が厚生労働大臣のときに政権交代があったわけです。当時の民主党が圧勝した。だから野党が大同団結して、企業・団体献金の禁止みたいな公約じゃなくて、これだけ落ちぶれた日本という国をどう立て直すのかという大きな政策を出す。なんで政策で勝負しないんだと思いますね。