美食=高級とは限らない。料理の背後にある歴史や文化、シェフのクリエイティビティを理解することで、食事はより美味しくなる! コスパや評判にとらわれることなく、料理といかに向き合うべきか? 本能的な「うまい」だけでいいのか? 人生をより豊かにする知的体験=美食と再定義する前代未聞の書籍『美食の教養』が刊行される。イェール大を経て、世界127カ国・地域を食べ歩く美食家の著者の思考と哲学が、食べ手、作り手の価値観を一新させる1冊だ。本稿では、同書の一部を特別に掲載する。

美食の教養Photo: Adobe Stock

あえて熱々にしない文化がある

 フランス料理やイタリア料理の店に行ったら、料理が熱々じゃなかった、生ぬるかった、という批判のコメントを見かけることがあります。これは、お店側が意図していなかったミスである可能性もなくはないですが、ちゃんとしたレストランの場合、意図している温度なのです。

 フランス語で「なまあたたかい」「なまぬるい」という意味の単語「tiede」が料理本やメニューにも掲載されているくらいで、イタリア語だと「tiepido」となります。あえて熱々にしないで、なまあたたかくしているということです。

 庶民的な料理は別として、高級フランス料理やイタリア料理に熱々のものはほとんどありません。

 なぜそうなのかについてはいろいろな説がありますが、フランス料理やイタリア料理は宮廷料理をルーツに持っています。広い敷地内の厨房とダイニングルームの距離が離れていたので、そもそも熱々で提供する文化が育たなかったといわれています。

 そして、必ずしも歴史的な背景を踏襲しているというだけではなく、熱々よりも若干温度が下がったほうが風味をより感じられる、という側面もあると思います。

 熱すぎると、微妙な風味のニュアンスがわからないのです。だから、ある程度、温度が下がった状態で、あえて出す。ちゃんと合理性があるのです。

 一方、中華料理の炒め物は、熱々で食べるべきものの筆頭です。それこそ、写真を撮るのも諦める場合もある。時間が経つと全く風味が落ちてしまうからです。熱々が大事な料理は、1分1秒を争う戦いになるのです。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田 岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。