世界のビジネスエリートの間では、いくら稼いでいる、どんな贅沢品を持っている、よりも尊敬されるのが「美食」の教養である。単に、高級な店に行けばいいわけではない。料理の背後にある歴史や国の文化、食材の知識、一流シェフを知っていることが最強のビジネスツールになる。そこで本連載では、『美食の教養』の著者であり、イェール大を卒業後、世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏に、食の世界が広がるエピソードを教えてもらう。

【なぜ悪者扱い?】美食家が考える「化学調味料」の是非Photo: Adobe Stock

「健康に悪い」に根拠はない?

「化学調味料」は体に悪い、と信じている人が世の中にはいるようです。そして、ソーシャルメディア上では、そう信じている人と堀江貴文さんがバトルを繰り広げたり、化学調味料を使う料理研究家の方が炎上したり、いまだに議論が起きるようです。

 そもそも「化学調味料」は今、行政の資料でもマスコミでもうま味調味料と呼ばれているので、以下そう呼びますが、うま味調味料が健康に悪影響を与える、という批判は科学的根拠がありません。単なる、信仰です。

 うま味調味料が危険だと主張する意見は、感情的な反応や思い込み、噂話に基づいています。1970年代にアメリカでは「中華料理店症候群」や「MSG症候群」と呼ばれる現象が広まりましたが、これはグルタミン酸ナトリウム(MSG)を摂取した後に頭痛やしびれを感じるといった報告が発端となりました。

 しかし、その後の科学的研究で、因果関係は否定されました。未知な食文化やアジア系住民に対する偏見や差別がベースにあったと思われます。

 うま味調味料は、大昔は石油由来の原料から生産していたそうですが、今は食品に含まれる天然のうま味成分を精製して作られています。うま味調味料のメーカーは、天然由来をひとつのポイントとして主張していますが、これは科学的ではない。

 だって、化学物質として全く同一であれば、何から抽出しようが何の問題もないはずだからです。ただ、食べ物から抽出していないと、なんとなく嫌だ、という感情論があるので、その相手をしているのでしょう。

 科学的には、とっくに解決した議論です。それが、なぜいまだに話題になるのか。素人が何の根拠もない思い込みを発信できるソーシャルメディアの時代になったのが一因だと思います。非科学的でも証拠がなくても、感情のままに発言できる。そして、根拠はないけれど同じ感情を抱えていた人が、そうだそうだ、と共鳴する。陰謀論が21世紀になって力を増しているのと同じ構図です。

 当たり前のことですが、どんな調味料でも、過剰に摂取すれば健康に悪影響を及ぼす可能性があります。塩や砂糖、そして油も摂り過ぎたら体に悪いことを科学的に否定できる人はいないでしょう。

 うま味調味料に関しては、他の調味料に比べると過剰摂取のリスクは小さいようですが、いずれにしても、常識的な用法用量を守っていれば問題はありません。