レストランで使われているのか?

 本書がテーマとする美食においては、うま味調味料を使用しているお店はあまり多くないと思います。

 ただ、海外では使っていることを公言しているファインダイニングもシェフもいますし、ヨーロッパでミシュランの星を複数獲得するレストランで働いたらうま味調味料がキッチンにあった、という話もときどき聞こえてきます。また、日本を代表する料亭においても、少なくとも過去、うま味調味料を使っていたのは、有名な話です。

 たとえば、「味の素」の原料はMSG(グルタミン酸ナトリウム)です。これと、昆布から抽出したMSGを食べ比べる。化学的に同一なものなので、その違いは絶対にわかりません(というか、違いが存在しません)。だから、うま味調味料を隠し味程度に少量使うと、それに気づくのは不可能に近い。

 では、なぜうま味調味料っぽいと感じる料理に出くわすことがあるのか。それは、うま味調味料が大量に使用されることで、風味のバランスが変わるからです。昆布には、MSG以外の成分も含まれています。それを代用するために味の素を大量に使うと、MSGだけが突出して、他の成分が感じられない。これが、違和感の正体です。

うま味調味料を使う合理性

 たとえばラーメンにおいて、天然の食材から抽出したうま味成分だけで勝負しようと思ったら、膨大なコストと時間、労力がかかります。そのため、安く提供したいお店がうま味調味料を使うのには、合理性があります。

 また、うま味調味料の味自体が好きで、積極的に求める人もたくさんいる。一方、ラーメンでもうま味調味料を使わないお店もあります。その分、手間隙がかかるので、値段は高いことが多い。個人的には、両方あっていいのではと思います。

 また、中華(中国)料理においては、うま味調味料がレシピの欠かせない一部になっていることが多い。

 日本の一部のお店は、うま味調味料を使わない中華料理に取り組んでいますが、そうすると修業先のレシピを根本的に見直さなければいけなくなった、という話もよく聞きます。中国本土においては、多くのお店がうま味調味料やそれに類するものを使っていますが、それはひとつの考え方です。

 不自然になるくらいに過度に使うことがなく、料理として完成されていれば、問題ないと思います。

 一方、うま味調味料を使わずに、時間や手間をかけて旨味を抽出する、このプロセスがひとつのストーリーとなっているお店もあります。

 だから、ファインダイニングにおいては、なぜ使うのか、なぜ使わないのかをお店のアイデンティティやストーリー性に基づいて説明でき、使う場合でもそれがバランスを崩すことがないよう巧みに使われている。それが理想的だと思います。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田 岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。